光る目をしたお人形~故郷生まれの
坊=ダナ・マクドール
魔王城(仮)は完成に近づきつつあった。 外側……外見はすでに出来上がっていたので手を掛けていたのは内装だ。 何が問題だったかと言えば一つしかない。 「やめろ。絶対にやめろ」 「何でそんなこと言うの?これは城には必需品なのに」 「そんな訳あるか!」 そう城の所有者であるダナとルカの意思がただ一点において一致しない。 二人は呪いの人形を挟んで言い合っていた。 「こんな不気味な目の光る人形が城中にあるなど悪夢でしか無い!」 「この目が光るところがチャームポイントなのに。どうしてルカはわからないかな。センスが無い?」 「寧ろお前のセンスを疑うぞ!」 ダナの趣味は服装から考えてもごく一般的、否。洗練さえているとさえ言える。それなのに何故そこだけ。 「お前は何故そんなにこの人形に愛着を抱いている?」 別なところから口が挟まれる。何故か未だに城に逗留しているゲドだ。 ダナとルカが(主にダナだが)の正体がハッキリするまで城に滞在する心積もりらしい。もしかすると路銀が危うくなってきてこれ幸いと居候しているだけかもしれない疑いはあるが。 「愛着……?」 そんなゲドに問いかけられてダナは首を傾げた。その表情はそんな問いかけをされるのが不思議そうで、己でもわかっていない様子でもある。まさかこれほど執着しておいて愛着などしていないと言うつもりか。 「……まさかの無自覚か」 ルカがぼそりと呟く。何でも見通し、世界の真意さえも心得ているようにさえ思えるのによくわからないところで何かが抜けていることがある。それがダナという不思議な存在だ。 ダナはそのまま窓の外に目をやり、表情を消して固まった。 無表情のまま動かない様子は、冴え冴えした美貌が余計に人外じみて、ダナこそが人形のように見える。 それは僅かな時間だったのか、長かったのか。 ゆっくりと瞬きをしてルカを見たダナは零れ落ちそうな微笑を浮かべた。 「置くね」 「……っ」 その声に含まれていたのは引く気は一切ないのだという決意。 「……好きにしろ、どうせお前の城だ。ただし!」 「ん?」 「寝室に置いたら燃やす」 ルカの決意にダナが破顔した。 光る目をしたお人形。 呪いの人形はダナの意志のもと、城の各所に置かれることになった。 「そもそも、監視用だしね」 「先にそれを言え」 監視用だとしても目立ちすぎだろう。誰もが警戒するのでは無いか。 「一つだけなら警戒するだろうけど、城中にあったらただの怪しい趣味だよ」 「一応怪しいとは思っているんだな」 「酷いな、ルカ。怪しいなんて」 「お前が言ったんだろうが!!」 ダナとルカは呪いの人形を抱えて(ルカはとてつもなく嫌そうな表情をして)歩きまわっている。ゲドにも突き合わせようとしたら丁重にお断りされた。巻き込み損ねた。 「んー入口を見渡すならここと……あそこと、そっちかな」 花が飾られている花瓶の横はともかく、天井近くの柱へどうやって置こうというのか。 「ルカなら登れるかなと」 「貴様は馬鹿か」 「ははは、大丈夫。ルカなら登れる!」 「ふざけるな」 「ちっ、煽てても駄目か……」 「おい」 そのままダナは柱の足元に人形を置いて別の場所へと歩いていく。放置で良いのか。 (まさか人形が一人で登るなど……そんなことがあるわけが無いっ!) 「何やってるの、ルカ。やっぱり登りたくなった?」 「誰がっ!」 「遠慮しなくてもいいのに。最近運動不足で動きが鈍っているから訓練に丁度良いかもしれないよ」 「鈍ってなどいるか!」 ルカは王子とは思えないほどに鍛え上げた肉体を持っている。それは己自信が強くあらねばならないという狂おしいほどの直情から生み出されたものだ。それが今となっては…… (こいつの隣に居るためには……弱い者は淘汰される) 強くあらねば置いて行かれる。すぐに死ぬ者は一緒に居られない。 自ら死地に飛び込み生還できるほど強くなくてはならない。 「わかってるよ、ルカの筋肉に衰えは無いもの」 そっと二の腕に触れるダナの手が熱い。 ちなみに放置されていた人形は翌日に見ると、きちんとダナが指定した場所へ置かれていた。 ルカがますます不気味そうに眺めたていた。 「ルカは妙なところで素直な温室育ちなんだよね」 人形が一人でに動くわけが無い。 もちろん、インテリアを手がけているドワーフが設置したに決まっている。 |