ようこそ、英雄さん!


坊=ダナ・マクドール








 廃墟は見る間に立派な要塞へと姿を変えた。
 それを可能にしたのは潤沢なる財源(ダナの裏金)とグラスランドとゼクセンの共有地という立地の成せる技だったのだろう。いきなりこんなものを自国内に建てられては文句を言うのは当たり前。しかしながら互いの共有地ということでお互いに遠慮や様子見している間に最早やめろといは言えないほどに事態は進んでいた。いや完了していた。

「あとは内装だね!何処にこの子たちを置こうか?」
「やめろ」
 未だに不気味に目が光る呪いの人形の設置をダナは諦めていない。冗談でなく本気なのか。
 そんなにこいつらに愛着があるのか。何が良いんだ。
 ルカには到底理解できなかった。・・・・・・それは人として当然の反応であると誰か彼に言って欲しい。
 このままだとルカはダナに流されそうだ。
「おい、ダナさん。お客人だぞ」
 そんな二人の会話に割り込んだのは内装工事を請け負っているドワーフのトワイキンだった。
「お客?誰だろう?」
「俺が知るか」
 ルカに問いかけたダナに切って捨てる。確かにルカに聞くのが間違っている。
「入り口で待ってるぞ」
「ああ、ありがとうございます。トワイキンさん」
 伝言を告げたトワイキンはさっさと自分の仕事に戻っていく。余計なことは詮索しない。
 わが道を行くドワーフらしい反応だ。
「ルカも行く?」
「ふんっ」
 寧ろ聞くな、と言わんばかりに鼻を鳴らしたルカはダナに続いて部屋を出ると階段を下りる。
 外見は要塞仕様にしたわりに中はかなり快適に作ってある。階段も十人ぐらい手を繋いで昇降できる幅だ。
 今は内装に携わる職人たちが資材を持って右往左往しているので丁度良いのだろうが。
 そんな無駄に広い階段を下りたところに見慣れない黒髪の背の高い男が立っていた。
 その姿を見たルカが腰の剣に手を触れる。
「ルカ」
 その手をぽんぽんとダナに叩かれても下ろす気配は無い。
「もう、仕方ないなあ」
 ふふふと笑ったダナはその男の力量がわからない訳では無いのだろう。ルカに容赦なく警戒させる男。
 それが何者なのか。
 二人がそんな遣り取りをしているうちに男もこちらに気がついたらしい。階段を見上げた男は眼帯をしていた。
「鬼太郎だ……」
 ぼそっとダナがよくわからない独り言を呟いた。
「お前がこの城を作った者か?」
 前振りなく、単刀直入に男が尋ねてきた。無駄を嫌う性格なのだろう。
 ダナはそういう人間が嫌いでは無い。
「ええ、そうですよ」
 だからダナも素直に頷いた。
 階段を下りて、男の前に立つ。ルカは変わらずダナの後ろでガン付けている。
 眼帯の男は表情だけでは何を考えているのかわからない。しかしダナにはわかることがある。
「ようこそ、初めてのお客様。        真の紋章の主さん」
「貴様っ」
 彼からは雷の紋章の気配がした。







 気色ばったゲドとそれに反応して殺気を飛ばすルカに、まあまあと笑顔で仲裁したダナは(原因はダナだが)、とりあえずお茶でもと、部屋として使えるようになっている一階の客間に案内した。
「まだ作っている最中で殺風景ですみません。もう少ししたら素敵な人形を置く予定なんです」
 ここにも置くつもりなのか。
「自己紹介からしておきますね。僕はダナ。こっちの怖い顔の人がルカです」
「おい」
 ダナが座るソファの背後に立っているルカを示して紹介する。
「……ゲド、と言う」
 紹介されたからには自分も名乗らないわけにはいかないと思ったのか不承不承に名だけを告げる。律儀なことだ。
 彼はちゃんとダナの前に座っている。
「ゲドさんですね。それで本日はどのようなご用件でしょうか?」
 にこにこと友好モードのダナに毒気を抜かれたのか、ゲドは何故か溜息をついた。
「その前に。お前は私のことを知っているのか?」
「いいえ。僕が知っているのは貴方が真の紋章を帯びているということだけです」
「……俺が真の紋章などというものを帯びているというのを何故知っている?」
 雷のとまで具体的に指定したからには誰かから聞いたのだろうと言いたいのだろう。
「別に誰かに聞いたわけではありません。僕にはそれがわかるというだけなので」
 それが何か?と言わんばかりのダナの言葉だが、普通の人にそんなことはわからない。
「何者だ?」
 必然的にそういう問いかけになるだろう。
 ダナはその問いに少し考えたふりをする。あくまで「ふり」だと言うことはルカしかわからない。
 またろくでも無いことも考えているに違いない。
「実は……昔、この地を治めていた領主の末裔なのです」
「何っ」
「……というのはどうでしょう?」
「っはぁ?」
 信じかけて突き落とされる。ダナの悪い癖だ。ルカは何度となくおちょくられた。
 しかしダナがその悪い『癖』を出す相手は限られている。
 簡単に言えば……『気に入っている』相手。
 目の前の相手が本当に初対面だと言うのならばいったいどのあたりを気に入ったのか。
「お前……
「すみません。まさか……大物がこんなに直ぐに釣れるなんて思ってもいなかったので。ちょっと嬉しくて羽目を外してしまいました」
 相手の怒気を感じてダナは素直にあっさりと頭を下げた。


「ようこそ、魔王城に。炎の運び手さん」








(その名はやめろと言っただろうがっ!!)
 ルカは心の中で叫んでいた。

























果たして名前は魔王城となってしまうのか・・・!?