目的地は出発地


坊=ダナ・マクドール









 ダックの雛たちに盛大に後ろ髪を引かれつつダナはビュッデヒュッケ城を目前にしていた。
 
「おい、ここが目的地なのか?」
「そうだよ。何か問題ある?」
「問題しか無いわっ!」
 どう見ても二人の目の前にあるのは廃墟である。
 城壁も半分崩れ落ち、城だって何とか『城』だったのだろうと想像させるだけだ。これを城とは誰も言わない。
「うーん、想像以上に壊れてるみたい」
「これを想像以上で片付けるお前がおかしい」
「えー、ルカだってよくお城とか壊してたじゃない」
「自分が住む城を壊したことは無い」
「お山の大将かい。ま、でもうちの本拠地みたいにドラゴンが住み着いてたりしないし大丈夫大丈夫」
「……」
 ダナの基準は色々とおかしい。
「ま、これだけ壊れてるなら今さら誰かが所有権を主張したって踏み倒せるよね!」
「何があってもお前は踏み倒すつもりだろうが」
 ルカが呆れた視線をダナに向ける。だがその言葉は限りなく正しい。
 何しろ先住のドラゴンさえ倒して本拠地とした英雄様だ。
「お前、ここに住むつもりか……?」
 それを人は野宿と言うだろう。屋根も無い。
「まさか。さすがにここには住めないから、大工を呼んで修繕をして貰おう」
 軽く言ってくれるがこの城を元通りにするというのは、ちょっと呼んでというレベルでは収まらないはずだ。
「何て名前にしようかな〜」
「名はもうあるのでは無かったか?」
「僕が便利に使いやすく修理するんだから命名権は僕にあるでしょう?」
「……お前はセンスが悪い」
「酷いっ!」
 かつてルカから送られた黒馬に『黒豚』と名づけようとしたダナである。
「ならばどういう名にするつもりか言ってみろ」
「そうだね」
 頬に手を当てたダナはにっこりと笑った。

魔王城

「却下」
 ルカに速攻で却下された。
 ダナがそんな名をつけると冗談なのか本気なのかわからない。
 そんな名をつけた日には目が光る呪いの人形を機を逃さじと城の各所に配置しそう……いや絶対に配置する。
 ダナならやる。
「仕方ないね。名前は保留っていうことで」
「……そうしておけ」
 疲れたようにルカが呟いた。









 思い立ったダナは早かった。
 周辺の町や村に掛け合って人足を手配すると、資材もどこからか調達してしまった。
「……お前、金はどうした?」
 ルカの問いにダナはにっこりと笑った。
「ルルノイエを出る時に皆が餞別にって持たせてくれたよ。優しいよね」
「お前……」
 ルカは渋い表情でダナを見た。
 ルルノイエに居る者たちが『優しい』だけで少なくない『餞別』を渡す訳が無い。
「大丈夫。ちゃんと入手ルートは僕に繋がらないようにしているから」
 それは『餞別』ではなく、裏金と言うのでは無いだろうか。
「まあいい。……それであそこに並んでいるものは処分するぞ」
 ルカが指差す方向には、不気味な呪いの人形がずらりと並んでいた。
 そこだけ空間が歪んでいるようにさえ見える。
「何言ってるの、ルカ。あれはこの城に無くてはならないものだよ」
「お前はいったいどんな城を作るつもりだ……」
 ルカが額を押さえた。
 ダナは腕を組み、断固として呪いの人形を処分させない心積もりだ。
 後で人足どもに処分させようとルカは決意した。
 あんなものが並ぶ城になど絶対に住みたくない。
「城の頂にも特大の人形を作って置いてもらおうかな」
「やめろ」
 本気で魔王城だと言われかねない。
「もうルカは遊び心がわからないんだから」
「そんなものがわかるか!」
 ルカとダナが夫婦漫才をしている最中もどんどん城は修繕されていく。
 しかし。
「お前、この城を修繕して本気でどうするつもりだ?」
「さあ、どうしようか」
 出来上がりつつある城はただの城では無い。
 高い城壁、城壁の上は見張りが立てるように広いスペースが取られている。
 東西に作られた門は分厚く広いが、鉄の門扉は簡単には侵入を許さないだろう。

 ―――― 要塞

 そう言うしかないモノだ。




























ダナは最強の本拠地を手に入れた!・・・?