将来への布石、青田買い


坊=ダナ・マクドール











 ダナは癒されていた。
 黄色い雛たちに囲まれて。


 ビュッデヒュッケ城に向かっていたダナとルカは途中のダッククランに立ち寄った。
 そこはダック族の王国である。
 彼らの勇猛さは近隣にも有名である。愛らしい外見だとしても決して侮ってはならないのだ。
 しかし更にその子供たちは……本当に可愛らしいのだ。

「へえ、君はジョー君って言うんだね」
 町の広場のような場所でダナはにこにこと笑顔で子供たちの相手をしていた。
「そうだ!こいつはワイルダーだっ!」
 元気いっぱいのジョーに対してワイルダーと紹介された雛……子供は大人しそうだった。
 手には本を持っていて少しジョーのことを鬱陶しそうにしている。
 大人になると白く変わる羽毛は子供の間は黄色く、ふわふわとしている。手触りは良さそうだ。
 ダナは仲良くなって触らせて貰おうと狙っている。
 そのためルカは到着早々に宿に置いてきた。ルカが居ては子供たちが怯えて近寄ってこない。
 子供たちどころか大人たちにも警戒される。
 何か文句を言っていたが、丁重にお断りとお願いをしておいた。
「そんなに怖い顔していないと思うんだけどね」
 どうしてだろう、と本気で不思議に思っているのか何なのか。ダナの感性は時々迷走する。
「オレは将来このダッククランを背負って立つ男になるんだぜっ」
 外の人間が珍しいのかジョーはしきりに自分のとを話したがる。
「へえっそれは凄い。君ならきっと強い男になるだろうね」
「ホントにっ!そう思うかっ!?」
「思うよ。本当に」
 ダナは相槌を打って太鼓判を押してやる。何も無責任に頷いてる訳では無い。
 ジョー少年の意志の強さを感じとったのだ。
 そんなダナにジョーは照れたらしく、黄色い尻尾をフルフルと奮わせる。
 可愛い。
「それじゃ、ワイルダー君はそんなジョー君を支えるために勉強を頑張っているんだね」
 ダナの言葉に今度はワイルダーが驚いたように目を瞠った。
 まさかそんな風に言われるとは想像だにしてなかったのだろう。
「なにっそうなのか!?」
 しかしジョーのほうは初耳らしい。何で言わないんだとワイルダーに掴みかかっている。
 ワイルダーも負けじと持っていた本をしまって応戦する。
 黄色い雛が喧嘩している姿はダナにとって微笑ましく、にこにこと止めることなく見守っている。
「仲が良くて羨ましいよ」
「「・・・・・・っ!!!?」」
 ダナの呟きに掴みかかって喧嘩していた二人が動きを止めてダナを見た。
 喧嘩している姿を見て仲が良いとはこれいかに、というところか。
「ワイルダー君はジョー君の言葉を信じている。だから頑張っている。そしてジョー君はワイルダー君を信頼しているから言ってくれなかったことが寂しかった。お互いにお互いのことを考えていると言うことだね。ね、仲が良いでしょう?」
「……お、おうっ」
「……ええ、まあ」
 掴みあっていた手がそろりと互いに外される。
「それじゃ、仲直り」
 ダナは二人の手をとって、握手させた。
 ふわふわていいて気持ちいいな、と心の中で思いながら。









「……ということがあったんだよ。微笑ましいよね」
 宿に戻ってダナは不機嫌な表情を隠しもしないルカに二人の子ダックの話をしてあげた。
 いかに可愛らしかったかという部分に重点を置いて。
「あのふわふわした感触、いいよね。お持ち帰りしたくなっちゃった」
 それは犯罪であるがダナがすると合法的にやりそうで怖い。
 そして話を聞いているルカの顔はだんだんと狂相を増していく。
「明日も遊ぶ約束をしたんだよ」
「ダナ」
「ん?」
 何?と笑顔を浮かべたままダナは首を傾げた。
「とっとと目的地に行くぞ」
「別に急ぐ旅でも無いだろうに」
「ダナっ!」
「はいはい。本当に……」
 ダナは慈しむように微笑むと、ルカの頬を両手で包み込んだ。

「や き も ち やき、さん♪」

 ちゅっとその唇に口づけた。
「……そんなことで誤魔化されるとでも思っているのか……?」
 地を這うようなルカの声だ。
「え?誤魔化そうとなんてしてないよ」
 本当のこと言っただけだもんと、口の減らないダナをルカは押し倒すのだった。



























ダナはダックを洗脳した!ルカが拗ねたっ!