ダナを捜して三千里


坊=ダナ・マクドール










 ルカの歩みに迷いは無かった。
 迷いは無いが魔物遭遇率は高かった。フのつく誰かと違うのは空を飛んだり落とし穴に落ちたりはしないこと。
「鬱陶しいっ」
 襲ってきた魔物の群れを振り払ったルカは剣についた魔物の肉片を振り払い、鞘に仕舞った。
 忌々しい。
 ルカの中にある思いはそれに尽きる。
 襲ってくる魔物もだが、己を置いて行ったダナが。何よりダナのことを忘れたルカ自身が。
「……だが。手放してはやらん」
 ダナの紋章の力の影響を受けたためか、ルカにはダナがどこに居るのかだいたい感じることが出来る。
「お前は俺のものだ」
 樹海の中を一歩踏み出した。



 ***



 ビクトールは空を見上げて、首を振った。
 相変わらずといえば相変わらずなのだが……フリックが空を飛んでいる。
 もちろん魔法などではなく。いつもの光景だ。もしかすると前世は鳥だったのかもしれない。
「あいつ……学習って言葉知ってるのか」
 知ってはいる。だがそれを凌駕するフリックの運の無さを哀れむべきだろう。どうしようも無い。
「ま、そのうち戻ってくるか」
 ビクトールは気にせず歩き出す。
 時折空から叫び声が聞こえてくるが気にしない。気にしたら負けなのだ。
 先行しているはずのルカの姿は街道のどこにも無い。
「まあぼちぼち行くか」
 ビクトールとてダナと行動が出来るというのなら否やは無い。
 しかしあちらがそれを拒否した場合、無理を押し付けるつもりも無い。元々自分たちのほうから離れたのだ。
 今更どうこう言う資格は無い。
 そう思っているとぼすっと前方で音がして足が生えていた。落ちてきたフリックだ。
「いつまでも遊んでないで行くぞ」
「っだれがっ遊んでるか!」
 頭はぼさぼさなのに不思議と額に巻いている青い布は取れていない。
「トレードマークだからってやつか?」
「何を言っているんだ。さっさと行くぞ」
「誰のせいで時間を食ってると……ああ、はいはい。怒鳴るなって」
 街をたって三日も経っていないというのにフリックの服は薄汚れている。
 青がトレードマークのフリックだが、マントが青なだけで中身の服は色々だ。いつも同じ服を着ているわけでは無い。
「空からアルマ・キナンの森が見えた。もう少しだ」
「……」
 別に空から確認しなくても街道はアルマ・キナンに続いている。
 まあ今までフリックは街道を歩くより空に居た時間のほうが長いので無理も無いが。
 ビクトールは時折……いや、しばしば思う。
 俺の相棒、こいつで本当に大丈夫なのか……と。



 ***



 ルカは槍を突きつけられていた。
「ここは男子禁制の村!疾く立ち去れ!!」
「男子禁制?……ダナという旅人が来たはずだが」
 外見はともかくダナは男だ。
 ダナが入れてルカが入れない理由がわからない。
 ここで即座に剣を抜かず、確認をしようとするルカは彼をよく知る人間なら『大人になったね』と感心する場面なのだがその問いただす表情も目も鋭すぎた。
 どうやら相手には脅されているように感じられたらしい。
「貴様に関係無い!立ち去らぬと言うのなら……」
 ルカに相対する女戦士二人は一触即発の雰囲気をかもし出す。


「おやめなさい」


「「ユリア様っ!」」
 門の内側から掛かった声に、二人はルカを警戒しながらも槍を下ろした。
 不思議な髪型と民族衣装をまとった優しそうな女性だった。
 そっとルカに歩み寄ったユリアと呼ばれた女性はそっと微笑んだ。
「暁の、伉儷(こうれい)。この世に有りて、かの世に在る方。どうぞ貴方でしたらこの村へも入ること叶いましょう」
 どうぞと女性は村の入口を指し示す。
 彼女の言うことは絶対なのか、槍を構えていた二人は特に何を言うでもなく脇へと避ける。
「ダナは?」
 再度尋ねたルカに女性は笑みを深くする。
「中へ。かの方は御座します」
 意味のわからない言葉に眉を上げたルカはそれ以上問いを重ねることは無く、足を踏み出した。


























ルカは坊ちゃんと再会できるのか!?(笑)