思うがまま、望むまま


坊=ダナ・マクドール
2主=ローラント









 炎はあっけなく鎮火された・・・・というよりは、まるで丸ごと闇に食われてしまった。
 全てがダナの作り出した闇に。
 初めてみたその真の紋章の、驚異的な力にシュウは畏れた。
 人が操るべき能力では無い。果たしてその…力の代償はどれほど高くつくものだろうか。

「余計な策は僕には効き目が無い。ご納得いただけたかな?」

 ダナはにこりと微笑して掲げていた手を元の場所に戻した。
 静まりかえった森には生物の息吹さえない。木々の梢の揺れる音さえしない。あるのはシュウたち人間の息を呑む音だけだ。
「・・・あなたは、貴方は、その力だけで、我々を・・・下すことが出来ますでしょうに・・・」
 シュウは喘ぐように紡いだ。
「無駄な否定はしないよ。でもそれはルール違反というものだろう?これはあくまで、ハイランドと同盟軍の戦いなんだから・・・僕一人で片付けてしまっては意味が無い。さてと、これで会談の用事は以上かな?もう何も無いなら帰らせて貰うけれど?」
「・・・・・っ」
 本当にこれが最後だ。
「軍師殿。君が賢明であることを祈っているよ」
 では、と優雅に一礼したその姿は、目の前で消えうせた。

 その瞬間、軍師以下兵士たちは残らず力を失ったように膝をついた。














 自軍に戻ってダナは、仏頂面のルカと対面した。

「やほ。ただいま」
「…貴様…どういうつもりだ…」
 何故か怒り心頭のルカだ。
「どうしたの、ルカ?皺が増えるよ」
「っ・・・あいつらは何だ!!」
 勢いよくルカが指差した先には          ・・・


 クマと青いマント・・・もとい、ビクトールとフリック・・・そして同盟軍軍主、が立っていた。


 まさに敵地の中心に、固い表情で佇む三人に、ダナは微笑んだ。
「やぁ、よく来たね」
 まるで家に招いた親しい友人へ掛ける言葉のようだ。
 もちろんキレかけているルカは無視している。
「『来ないとまとめて裁き』だなどと脅しておいてよく言うな」
 ビクトールが苦々しく口にする。どうやらシーナに頼んだ伝言は上手く伝わったらしい。
 そしてルックもちゃんと『お願い』した通りに三人をここまではこんでくれた。
「あはは。そのくらいしないと身動きできなくなってたくせに」
「・・・っ」
 さっくりばっさりくっきり、とビクトールを一刀両断したダナは、その視線を軍主ローラントに向けた。
「お久しぶり。軍主殿」
「・・・・どういう、つもりですか」
 固い表情のままのローラントに、こてりとダナは首を傾げる。その仕草だけを見れば可愛らしい、と言えるかもしれないが、内面は悪魔も逃げ出すほどに極悪非道であることは知る人ぞ知る。
「親切心、かな?仲直りさせてあげようと思って」
 まるで善意のように告げる。
「そもそも軍主なんてものになったのも幼馴染のためでしょ?君がここで降伏すれば誰も傷つくことなく全ては丸く収まる。・・・それとも意地で戦を起こして負けるとわかる戦に兵士をかりたて、彼らの家族を泣かせたいのかな?」
「そんなっ!」
 傍らで聞いている者は思う。まさに弱いもの苛めだと。
 だが、ダナの言葉は偽りではなく真実で・・・誰かが膝を折らなければならないのだ。そしてそれは息絶え絶えである同盟軍に相応しい。
「でも・・・」
「何を迷うの?同盟領がハイランドに統合されたからといって、別に同盟領だからといって虐げられるわけではないことは今の征服された領土を見ればわかるだろうし・・・君はもともとハイランド出身だし、恨みつらみを言ったらそれこそどちらの国にもきりは無い」
 それでも逡巡するローラントに、ダナははっと顔を煌かせぽんっと手を打った。
「そっか!引っかかりはルカかな。わかるわかる、あれだけ酷いことしてたものね。そうそう信用できないっていう君の気持ちはよくわかる。でも、別に統治するのはルカじゃないから良いんじゃない?」




「「「「「は!?」」」」」





 戸惑いの声を上げ無かったのは、ダナと・・・そして名を出されたルカ本人だけだった。

「ルカは皇王にはならないよ」
「え・・・」
 ローラントの視線がダナとルカを往復する。
「ルカは僕が連れて行く。ルカのこれからの人生は全部僕のもの。死した魂さえ僕のものだから」
 至福に満ちた微笑。発言の内容は物騒極まりないのに、惚気に聞こえる・・・否、実際そうなのか。
「だったらハイランドは・・・」
「もちろん。ルカが継がないなら、妹のジル殿下とその夫君であるジョウイが継ぐことになるね」
「な・・・っ」
 その場には同盟軍の三人だけでなく、クルガンもシードも、各将軍たちも揃っていた。
 つまりその発言は公式のものでは無いとはいえ、もう取り返しのつかないもの。宣言したも同然だった。

 ルカ・ブライトは王位継承権を放棄する。

 ルカの口から放たれた言葉では無かったが、ダナの言葉をルカは否定しない。
 緊張する場の中で、ダナだけはどこまでも自然体だった。

「さぁどうするんだい?口煩い軍師殿をわざわざ遠ざけてまで君たちを呼んであげたんだ。・・・これ以上、私は譲歩する気は無い。あくまで戦うというのならばそれも良かろう。     同盟軍の屍を大地に敷き詰め新たなる領土の礎としよう」
 口調をがらりと変えたダナは、同じ微笑を浮かべているのに・・・まるで違う印象を与える。
 まさに覇王。絶対支配者。
 その御前では、誰もが膝を屈するだろう。




          さぁ、応えよ。 軍主殿」



























王手!・・・な感じです。