明日の敵は今日も敵


坊=ダナ・マクドール
2主=ローラント








 ネクロードが自分のために自分で用意しただろう上等な玉座にはダナが座っていた。
 小柄でありながらも圧倒的な存在感で、衆人を睥睨する様は・・・まさに。
 まさに、          覇王。
 天さえもがそれを祝福するように、背後の巨大なステンドグラスから七色の光が差し込んでいる。
 その傍らには長身のルカが腕を組んで立っているが、いったいどちらが王だか皇子だかわからない。
 その光景に、一同声が無い。

 ぱちんっとダナが手を鳴らした。

「さてと、じゃ頑張って」
 あまりに軽い口調で、ダナは勝負の開始を宣告した。
 しかし、ネクロードを倒さんと勢い込んできた割に同盟軍リーダー一行は複雑な面持ちでネクロードとダナを交互に見やる。ダナはその視線に微笑で応えた。
 この笑顔こそ曲者であった。どれほど優しげに慈愛に満ち溢れているように見えようとも、そこに否やを唱えられる隙など一欠けらも無い。戦う以外の選択肢は存在すらしない。
 対するネクロードも負けは即座に死に繋がるとあって、放つ殺気が尋常では無い。
「貴様らなぞ五分で片付けてくれるわっ!」
 闇の呪文が発動する。

「五分だって。大口叩いたね・・・きっちり計ってやろ」

 懐から懐中時計を取り出し、計っていく。
「・・・・・・・・」
 ルカが呆れたようにそれを見下ろす。
「発動に10秒もかかるって遅くない?
 一般的に考えて早いくらいだ。しかしダナの基準からすれば亀の歩みのように遅いのは仕方ない。ダナは詠唱せず、意識しただけで呪文の効果を発動してしまう。そんなある意味『人間外』な基準で判断されてはたまらない。
 まぁ、ネクロードも思いっきり存在だけは人間外だが。
「見てるだけなのも飽きるよね。ルカ、暴れだしたくならない?」
「・・・・・」
「狂皇子の血が騒ぐ、とか」
「どんな血だ」
 ダナとルカがぼけとツッコミをしている目の前では、死に物狂いのネクロードに苦闘している同盟軍一同の姿がある。
「6人がかりで一人を攻撃してるのに、どうしてこんなじ時間がかかるんだろ」
 ダナが自分なら一瞬なのに、と呟く。
 彼の右手には最凶の紋章がある。そうでなくとも自身が最凶なのに・・・裁き一発でネクロードは後悔する間もなくあの世へ一直線だろう。
「そう思うならさっさと始末したらどうだ」
「そうはいかない。僕は一度約束したことを破るようなことはしない」
「・・・・・・」
「それに」
 これが肝心なんだけど、とダナは戦うかつての仲間たちを見ながら続ける。

「ちゃんと           見極めないとね」










 鬼気迫るネクロードの攻撃に、一同は苦戦していた。

「大いなるめぐみ!」
 ローラントが回復を担当する。彼の攻撃力はパーティでもビクトール、フリックに継ぐほどに高く出来れば攻撃にまわりたいところだが、他のメンバーが装備している紋章が火系か雷系という、なぜこれほど攻撃重視でパーティを組んだのかと問いただしたいほどに役に立たない。
 もっとも原因の一端はダナにある。彼のおかげで同盟軍はろくに仲間を集めることもできず、『軍』という体裁さえ保てなくなりつつあるのだ。
 だからこそ、ここは何としてでも勝っておかなくてはならない。勝たなければならない戦いなのだ。
 背水の陣であることはネクロードも彼等も同じ。
 ならば勝敗を決めるのは、互いの精神力と・・・・諦めの悪さ。
「いくぞっビクトール!」
「おうっ!」
 二人のクロス攻撃・・・別名「腐れ縁攻撃」が発動する。
 星辰剣で斬りつけられればさすがのネクロードもただでは済まない。防御に徹している。
 だがそれに畳み掛けるように、ザムザが踊る火炎を発動し、リィナとアイリも攻撃を仕掛ける。
 ・・・だが、紋章レベルが低いため、大したダメージになっていないところが辛い。

「制限時間決めておいたほうが良かったかな・・・誰だよ5分で片付けるなんて言ったの」
「・・・・・・・・」
 ダナがぶつぶつと文句を言い始める。
 そして、はっと何か思いついたのか傍らのルカをきらきらした目で見上げた。
 嫌な予感がする。
「ちょっとルカ」
「断る」
「・・・まだ何も言ってないよ」
「断る」
 あくまで頑ななルカを気にすることなく、ダナは用件を切り出した。
「ちょっと同盟軍に混じって戦ってきてよ」
「馬鹿か」
 なぜ敵であるルカが、そんな手助けのようなことをしなければならないのか理解不能だ。
「だってこのままじゃ日が暮れるし。・・・・・飽きてきた」
 最後の付け足しのような一言こそダナの本音だろう。
「ならばお前がさっさと片をつければいいだけの話だろうが」
「えー、一応手出ししないって言っちゃったしね」
 目の前で両手を組み、こくりと首を傾げる。その様だけ見れば『可愛い』と十分に言えるのだろうが、やろとしていることはその真逆を突き進む。
 いったいどんな風に教育すればこんなものが育つのか、とルカは己を棚上げして思った。
「安心しろ。そろそろ決着がつきそうだ」
「あ、ホントだ。やっぱり6対1じゃ、ネクロードの分が悪いよね」
 これが反対ならば卑怯者と罵られるのに、まったく悪役というものは大変だ。


 星辰剣が最後の留め、とネクロードを袈裟懸けに切り裂いた。


 紋章の能力でその身を保っていたネクロードの体は文字通り崩れ落ちていく。
 これで終わりだった。

 否。





「この期に及んで、僕の目から逃げられるとでも思ったわけ?」




 再び以前のように蝙蝠に化けてこっそりと逃げ出そうとしたネクロードをいつの間にか短剣で壁に突き刺し、玉座から立ち上がったダナが右手を掲げる。





「 裁 き 」





 最凶の呪文は、ネクロードに悲鳴を上げさせる時間さえ与えることなくその体を灰に変え・・・跡形もなく消滅させた。
 圧倒的な力の前に、戦い疲れた同盟軍一同は身じろぎさえ出来ない。
 ここでネクロードと同じような運命をたどることさえあり得るのだ。
 今の彼は、ダナは・・・・「敵」なのだから。


 ネクロードを始末した余韻さえ残さず、ダナは静かな面持ちで彼等・・・ローラントを見つめている。
 その目はどんな色も宿しておらず、まるで鏡のような美しさだった。
 人が到底持ちうるものではないそれに、知らず背筋があわ立つ。












「君は、何がしたいのかな?」











「・・・・・・・え」
 何を問われたのか理解できず、ローラントは間抜け面を晒した。
 それに構わず、今度は腐れ縁へとダナは視線を流す。

「お前たちも。彼に何をさせたいわけ?」

「「・・・・・・。・・・・・」」
 淡々とした言葉に、ビクトールとフリックは何も言えず唇を噛む。
 ローラントとは違い、こちらは多少なりともダナの言いたいことがわかるのだろう。

 狂皇子ルカ、という存在が恐れるべきものでは無くなろうとしている今。
 本当の脅威は目の前に在る、ダナという最強にして最凶の存在である。
 その姿は神を凌駕するほどに神々しく、美しいけれど・・・決して正義ではない。
 ・・・彼等の側からするならば。





「全てを失いたくなくば、よく考えることだ」







 去っていく、ルカとダナの背を呆然と見送っていた。
























パーティメンバーは、とてもとても適当(苦笑)
しかし、計らずもシーナと同じようなことを言わせちゃったな・・・