仰せのままに
坊=ダナ・マクドール
2主=ローラント
トゥーリバーをキバ将軍とクラウスに一任したダナは、僅かな兵のみを連れてグリンヒルにやって来た。 ジョウイとその軍師となったレオンがここには居る。 ダナが総司令官に任命される前にグリンヒルに攻め入った彼等だったが、情報は伝わっているだろう。 レオンがどんな策をもってグリンヒルを攻め落としたか、すでにダナは忍によって知っていた。 そうでなくとも、嘗ての己の副軍師がどんな策を好むか・・・想像するは容易い。 同じシルバーバーグとは言え、その軍師としての在り様は様々だ。 レオンの欠点は己の能力の高さゆえに他人を侮り、予想外の反撃を食らうことだ。いい歳なのだから、学習して欲しいものだが・・・三つ子の魂百まで。恐らく変わっては居ないだろう。 だとすれば、グリンヒルが奪還される危険性が高くなる。 せっかくたいした労力も無く手に入れた場所だ。出来ればそのまま帝国のものとしておきたい。 そのためにダナはルルノイエには戻らずグリンヒルにやって来た。 「まだ帰ってこんのか!・・・とかルカは怒ってるんだろうなぁ」 肩を怒らせた腹を空かせた熊のように部屋をうろついているルカの姿が脳裏に浮んだ。 ダナの顔に笑みが広がる。 ルカの我慢の限界が来る前に帰らなければ。 「さっさと片付けるとしよう」 総司令官の到着を伝えた伝令役の兵が下がり、僅かもしないうちに当の総司令がジョウイとレオンの前に白い軍服を翻して表れた。 まるで自身が輝いているような美貌の少年を二人は眩しそうに見つめる。 「やぁ、ご苦労様。ジョウイ、レオン」 一度ルルノイエで顔を合わせているとはいえジョウイにとって初対面にも等しい。 何故これほど親しげにされるのかわからない。 一方のレオンも、日頃な不遜な様子が嘘のように神妙に…けれど不審な顔を隠しもせず入室してきたダナの一挙手一投足を注視していた。 「総司令官…殿?」 ジョウイと同年代にあるだろう少年…自分が一軍を率いていることさえかなりの異色であるが、ハイランド軍の総司令官だという目の前の存在が信じられない。 狂皇子と呼ばれるルカだが、彼は無能な人間を軍のトップに据えるようなことはしない。その点は、徹底した実力主義者だ。だとすれば目の前の少年が地位に相当の実力を持っているということになるが… 「そう。成り立てだけれどね。グリンヒル無血開城おめでとう。この策は・・・ジョウイ、君が?」 「あ、え・・・はい」 「そう」 穏やかに頷いている。 「なかなかの策だ。・・・ただ、テレーズ市長代行を拘束できなかったのは痛いかな」 ジョウイも自身でわかっているのか、ダナの言葉にぎくりと身を固くする。 「レオン」 「・・・はい」 ジョウイから自分の方へと意識を向けたダナにレオンが緊張する。 レオンにとっても、ダナが『ハイランド軍総司令官』になろうなどとは驚天動地の出来事なのだ。 「お前にしては愚かなミスだな。傍観でもしていたか?」 何故かダナの口調ががらりと変わる。 「・・・いえ」 「それとも相手のほうが上手だったか?」 揶揄うように言われてレオンが僅かにむっと表情を変えるが反論は出来ない。 「・・・返す言葉もございません」 横に立っていたジョウイが目を丸くする。このレオンをまるで手の上で転がすように扱っている少年はいったい何者なのか。 「ジョウイ、君は詰めが甘く。レオン、お前は追い詰め過ぎる。これ以後の指揮は私が取る」 「「仰せのままに」」 二人に出来るのは、胸に手をあて頭を垂れることだけだった。 「さてと、まずはテレーズ市長代行が潜伏している場所を明らかにして確保しないとね」 ああそれから、とダナは続ける。 「下の兵士にまで上の意図が浸透していないみたいだね。ここに来るまでにも市民に乱暴しようとしていた者を幾人か見つけたよ。綻びは足元から。・・・上ばかり見ていては気づかぬうちに足元を掬われる」 注意することだ、と全てを見通しているかのようなダナの言葉に同席しているジョウイは戦慄する。 「そのへんは僕が連れてきた兵士に見回りをさせているからいいとして。 『…お傍に』 突如現れた黒い忍に、ジョウイがぎょっと身を引いた。 レオンは外見上は変わらない。解放軍時代もよくあったことゆえに。 「テレーズの潜伏場所を探れるか?」 『すでに』 ダナが笑った。 「さすがだな、カゲ」 『・・・恐れ入ります』 主君の意を汲んで動くのは忍として当然のこと。ましてや生涯唯一の主と定めた相手ならば猶のこと。 カゲにとって主君の役に立てること、それは至上の喜びだった。 だから報酬などカゲには必要無いのだが、それではいけないとダナは換金制の高い宝石などで支払いを行う。カゲもそれがダナの心からの気持ちであるとわかっているから受け取るが、それを換金したことは無い。宝石の数、それはカゲの誇りでもあるのだ。 「それじゃ、案内してくれるかい?」 『御意』 ダナは立ち上がりさっさと部屋を出て行こうとする。 「総司令!」 あれよという間に進む話に呆然としてジョウイが慌てて引き止める。 「何?」 「まさかお一人で行かれるおつもりですかっ!?」 「そうだけど」 それが何か、と問い返すダナにジョウイは眩暈がする。 「危険すぎますっ!!」 ダナは笑ってしまった。 「大丈夫。心配いらない。それよりも君はうちの兵士たちに目を光らせておいて。僕は、無抵抗な人間への暴行や、破壊行為を決して許さないという命令を全軍に出している。それを破る者は厳罰に処す。君のところの兵はそれを布告する前に出陣してしまったからね。よく言い聞かせておいて。それからレオン。余計な動きをせず、軍師としてジョウイの協力すること。・・・わかったね?」 穏やかな口調だったが、否やを言うことの出来ない圧力があった。 二人が無言で頷くの見て、ダナは今度こそ白の軍服を翻して部屋を出て行った。 「・・・この服はやめたほうがいいかもしれない」 「ジョウイ殿?」 白と白。どうしてもジョウイとダナは比べられるだろう。 そしてジョウイが完敗することは目に見えている。 葛藤するジョウイを見ながら、レオンもまたこれからの計画の大幅な変更を夜余儀なくされたことに内心で溜息をついたのだった。 |
坊ちゃんは好きな子ほど虐めるタイプです(笑) |