僕は君と友達になりたい だって僕は君の友達だから


ダナ=坊ちゃん

*3*
It's no use crying over spilt milk 2








 食堂ではグレミオがお玉を片手に給仕を行っていた。
「こちらへどうぞ、テッド君」
「あ、どうも」
 そのグレミオに席を示され、腰を下ろす。
 他に給仕の姿は無い。普通貴族の家ときたらメイドやら執事やら居てもいいだろうに。
「遠慮せずに食べてね」
 そのテッドの前に座ったダナはそう言ってテーブル中央に盛られていたパンを取る。
「今、シチューを持ってきますからね」
「え、あ……はい」
 朝からシチュー?と疑問に思いながらもテッドに出来るのは頷くだけだ。
 目の前のダナがふふと悪戯っぽく笑った。
「グレミオの得意料理はシチューなんだよ。だから我が家のメニューでシチューが出てくる率は異様に高いんだ」
「……」
「シチューは嫌いじゃない?」
「いや、別に……」
「それなら良かった。味は保証するから安心して」
 時には泥水さえ啜り、野草を口にして飢えを凌いだこともある。
 それを思えば普通に食事が出きるというだけで贅沢だ。
 未だにどういう会話をしていいのかわからないテッドは返事も少なく、とりあえずパンを口に放り込んだ。
 食べてさえいれば会話はしなくてもいい。
「そう言えば……テオ将軍は?」
「父上は早くに城へ行かれたよ。色々と事後処理があるんだろうね。ゆっくり休む暇も無いなんて大変だ」
「……」
(何か……物分りが良すぎないか?)
 このくらいの年なら家を離れていた父親が帰ってきたら傍に居たいものでは無いのか。
 もしくは拗ねる、とか。
(俺が居るから……不満を隠してる、のか?いや……そんな風には見えない)
「テッドは何歳?」
「俺、は……じゅ、十二かな」
 三百年ほどサバを読む。
「へえ、それじゃ僕と同い年なんだね」
「良かったですね、坊ちゃん」
 シチューを運んできたグレミオが会話に参加する。
「そうだね。ねえ、テッド」
「んあ?」
「僕と友達になってくれないかな?」
「……っ」
 口に含んでいたシチューをテッドは噴出しそうになった。
(まずはお友達から……て、見合いかよっ!)
「……駄目?」
 憂いに満ちた表情で小首を傾げ、ダナは上目遣いにテッドを見る。
(うわー……)
 テッドは冷や汗が浮かんだ。
 ダナの態度は恐るべき破壊力を持っていて、わかってやっているなら性質が悪い。
 ここで断れば大概の人間が相当な罪悪感を感じずには居られないだろう。
(こいつは子供……こいつは子供)
 本当に女に生まれなくて良かったのだろう。絶対に傾国になる。
「いや……でもそっちこそ俺なんかと友達なんて、いいのかよ」
 テッドの立場はしがない戦争孤児である。そんな身分も最底辺に近いテッドがマクドール家の世継ぎと友達など、本人は良くても周りが反対するものだ。
「いいからお願いしてるんだよ。変なテッド」
 くすりと笑う姿はその背景を理解しているようでもあり、理解していないようでもあり。
(よくわからねえな、こいつ……)
 普通の『子供』で無いことだけは、おぼろげながら察するテッドだった。



















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