僕は君と友達になりたい だって僕は君の友達だから
ダナ=坊ちゃん
*3*
It's no use crying over spilt milk 1
ダナの一日はグレミオに起こされるところから始まる。 「おはようございます、坊ちゃん」 「おはよう、グレミオ」 そうして用意されていた服に着替えて、グレミオに髪を梳いてもらう。 ダナの髪は肩を超えるほどにあるので自分では難しいのだ。 「今日は一つにまとめましょうか?それとも編みこみましょうか?」 「……今日は体を動かすから邪魔にならないようにまとめてくれる?」 「畏まりました。グレミオにお任せ下さいっ!」 何故か気合を入れるグレミオにダナは特に疑問に思うことなく任せてしまう。 いつものことなので。 「坊ちゃんの髪は綺麗な黒髪ですからね……余計な装飾は必要ないでしょう」 「うん、簡単にまとめてくれるだけでいいから」 ダナは貴族の令嬢ではない。幾らそこらの貴族の令嬢が束になっても敵わないような美貌でも。 「そういえば、昨日のテッド君はもう起きてる?」 「いえ、まだのようですよ」 「そう。だったら目が覚めるまでそっとしておいてあげて。疲れているだろうから」 テオと共に帰って来たということはそれなりな事情もちであると予想できる。 また軍と一緒だったのだからゆっくりと休めもしなかったはずだ。 「はい。そのように」 優しいダナの気遣いにグレミオはにこにこと笑顔を浮かべて頷いた。 朝の定期的な目覚めはすでに長年の癖となっている。 夜明けごろに目を覚ましたテッドは、自分の置かれている状況を寝心地の良いベッドで思い出した。 (そう言えば、テオ将軍と一緒に・・・・・・) 部屋に案内されてテッドはすぐに寝てしまったらしい。食事をした記憶が無い。 とんだ無作法だが、やってしまったものは仕方ない。 ぐう、と自覚すると腹が空腹を訴えるように鳴った。 「はあ……腹減った」 他人の家の食糧を勝手に漁る訳にもいかず、朝食の時間まで待たなければならない。 脱力したテッドはこれからのことを考えることにした。 マクドール家の召使はどこの馬の骨とも知れないテッドにも親切に部屋まで案内してくれた。 用意されていた部屋もきちんとした客室でゆっくり出来た。 至れり尽くせり過ぎて逆に不安になってくる。 (まさか紋章のことがバレて……利用しようって思っている……訳は無いよな) テッドは自分の紋章を誰にも見せていない。手の包帯は醜い火傷の痕を隠すためだと言っている。 だったら何故ただの戦災孤児(と思われいてる)テッドが賓客のような扱いを受けているのか。 (あの子供……か) 昨日テオの息子だと紹介された少女にしか見えない子供を思い出す。 あのテオの子供とは到底思えない『美』少女で華奢な姿はちょっとしたことですぐに倒れてしまいそうだった。 しかしテッドをしっかりと見て挨拶をしてきた姿に気弱さは無かった。 それはさすがテオの子供というところなのだろうが……。 それにしても、ダナの姿を思い出すたびにテオが心配するのも無理からぬところと納得してしまう。 あれで男ではなく本当に女だったら、テオは気の休まる暇も無いだろう。 (今更子供の相手とか……俺の実年齢幾つだと思ってんだよ) 普通の子供の遊び相手など務まる気がしないテッドは深い溜息をついた。 そこに扉がノックされる音が響く。 「もうお目覚めですか?」 「あっはい!起きてますっ!」 テッドは慌ててベッドの上から立ち上がった。 「朝食の準備が出来ていますが如何ですか?ゆっくりされたいようならもう少し後にしますが……」 「いえっ!いただきますっ!大丈夫ですっ」 「では、食堂で待っていますね。階段を下りて右側ですから」 扉越しの気配が遠ざかっていく。 テッドは息を吐くと身だしなみを整え、扉を開いた。 「テッド君」 「っわ!」 目の前に人が居て、普通にテッドは驚いた。 (気配を感じなかった……よな) 「おはよう。よく眠れた?」 「あ、おおはよ」 頷くテッドをダナは微笑ましそうに見て頷いている。 「良かった。食堂に案内しようと思って待っていたんだ。こっちだよ」 「あ、ありがとう」 自分のペースが掴めずダナに反応を返すのが精一杯なテッドをダナは気にすることなく笑顔のまま案内をはじめる。 「軍と一緒じゃ、ゆっくりも出来なかったでしょう。お腹が一杯になったらまた休んでくれても良いからね。それと……」 ダナが気遣わしげにテッドの包帯に巻かれた手に視線を向けた。 「もし怪我をしているなら腕の良い医者が居るから呼ぶけれど……」 「いや、これは昔の怪我だから……大丈夫だ、です」 くすりとダナが笑った。 「年も近いし、そんなに畏まってしゃべらなくても大丈夫だよ」 「じゃ……まあ遠慮なく」 貴族なのに貴族らしくないダナに戸惑うテッドだった。 |
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