44.破天荒  (ミスジパ/ノブヒヨ)








 俺は信じていました。
 あなたの言葉を。
 あなたという人を。






「何が見える?」
「・・・望んだものが」
 問われ、俺は応える。
 眼下に広がる豊かな町並み。
 今のこの国で、この町ほど栄えている場所は、無いだろう。そう断言できる。

 これが望んだもの、望まれたもの。
 夢ならぬ、目指したもの。

 やっとここまで。
 もう、ここまで。


「・・・・・サル」
「・・・信長様」
 寄り添い、この『時』を噛み締める。

「人生50年、死んでも悔いは無し」
「莫迦なことを言わないで下さい」
「・・・・・・・。・・・・・・・」
「・・・・・・・。・・・・・・・」









「ってめぇ、主君に向かって”莫迦”とは何だ、”莫迦”とはっ!」

莫迦だから莫迦って言ったんですっ!死んでいいわけないでしょっ!」



 先ほどまでのシリアスな空気が嘘のように、騒々しくなる。
 信長の襟首を掴まれ、持ち上げられたまま、藤吉郎はひるまず睨みつける。


「すぐ手の届くところまで来てますけど、まだ手に入ったわけじゃないんですよっ!死んで悔いが無いわけ
 ないじゃないですかっ!莫迦なこと言わないで下さいっ!」
「もう手に入ったも同然だっ!てめぇこそ莫迦なことを言ってんじゃねぇっ!」
「だったら・・・だったら、俺はどうするんですかっ!殿が死んで、俺は・・・どうすればいいんですかっ!」
「・・・・・・・・・。・・・・・・・」
「俺はまだ死にたくありませんっ!ずっとずっとまだまだ生きるって決めてるんですっ!それなのに殿が
 居ないなんて・・俺は、どうすればいいんですかっ!」
「・・・・・・・・。・・・・・・・」
 涙まじりの大きな目で強く見つめられて、信長は言葉を失う。
 彼の部下でここまで真っ直ぐに物を言う奴は居ない。藤吉郎だけだ。その藤吉郎でさえ、普段はここまで
 逆らうような物言いはしない。それだけに譲れないことなのだ。
 信長はいつも分が悪くなったときに浮かべるすねたような表情で、藤吉郎を投げ出すと、ぽつりと。

「・・・・・泣くな、莫迦」
「・・・殿が、泣かせたんじゃ、ないですか・・・っ」
「本当に莫迦なのは、てめぇだろうが・・・俺が」
「・・・・何ですか?」
「俺がてめぇを・・・・・」







「置いていくかよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・藤吉郎」








「っ!?」
 目を見開く藤吉郎を置いて、信長はさっさと天守閣の中へ戻る。


「・・・はいっ!信長様っ!」
 藤吉郎は追いかけた。















 




 破天荒。誰も行えなかったことを成すこと。


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