41.ベネチアングラス 【幻水・2主坊】
2主=ローラント 坊っちゃん=ダナ
ティンッ・・・・と澄んだ音が響いた。 グラス同士を打ち合わせるのは無作法ではあるが、ダナはこの何とも言えず澄み切った音が、グラスの中を 揺らす酒により一層の深みを与えるようで、好きだった。 わずかに口に含むと、冷ややかな液体が喉をくすぐり、甘い痺れとともに、喉を下りていく。 「マクドールさんっ!それそれ、何飲んでるんですかっ!?」 興味津々と目を輝かせて訪ねるローラントの手にあるのは、オレンジジュース。 未成年である軍主には軍師よりアルコール禁止令が下されていたため、たとえ酒場でもローラントは その類のものを一切口にすることは出来ない。 「ん・・・これ?」 「はい!」 ダナは不思議な微笑を浮かべた。 薄暗い黄色の明かりの下でも褪せることのない、その美貌にローラントはぽぉ〜と見惚れる。 「・・・ブルームーン、といったかな」 「ブルームーン・・・綺麗な名前ですね!」 「うん。まぁ、これには別の意味もあるんだけどね」 「別の意味、ですか?」 「そう。”できない相談”ていう意味がね」 「・・・できない相談?」 不可解なローラントの顔に、ダナは再び微笑する。 「・・・女性が男性に誘われたとき、その気が無いときに頼むカクテルなんだよ。だから”できない相談”」 「へぇぇ・・・・・・・て!?もしかしてそれをマクドールさんが頼んでるってことは・・ことは、僕の誘いには全然 その気がないってことなんですかぁぁっっ!?」 慌てふためくローラントに、ダナは口角をあげ、グラスを持ち上げた。 「・・・・・そういう意味にして欲しいかい?」 「嫌です!ぜーーーったい駄目ですっ!」 必死で言い募るローラントに、くすくすとダナは笑いころげた。 「・・・違うよ。僕がこれをよく頼むのは・・・・綺麗、だからかな。グラスの中の青い液体は光の屈折で様々な 色に変化する・・・・見ていて飽きないだろう?」 言いながら、ダナはローラントにグラスを傾けてみせる。 「ええ・・・確かに。綺麗ですね・・・・・でも!」 「ん?」 「マクドールさんのほうがずっとずっっっと、何倍も綺麗ですっvvv」 「・・・・・・・・。・・・・・・・そうかい、ありがとう」 「あうあう・・・あっさり流されてしまった・・・・・」 何度ふられても諦めず真正面からダナにアタックし続けるローラント。当たって砕けろ、というまでもなく、 すでに砕けてこなごななのだが、その破片を拾い集めては再び挑戦してくる。 その努力と根性と・・・・執念深さだけは、賞賛に値すると心の中でダナは評価していた。 だいたい、ローラントはぱっと見た目、素直そうな元気のいい少年に見えるが・・事実、概ねその通りなの だが・・芯のところで一筋縄ではいかない食わせ者な性格も潜んでいる。 だてに天魁星として選ばれたわけではないということか・・・。 「マクドールさんは、僕のことどう思ってますか?」 「・・・・・・さぁ、どう思っているんだろうね」 「・・・意地悪言わないで、教えて下さいよ〜〜〜〜」 あくまでつれないダナに、ローラントが半泣き状態になる。 (この・・・ブルームーン、とグラスのように・・・・・・・飽きないもの・・・・・・というところかな) ダナはそっと心の中で呟き、グラスを傾けた。 |