61.名犬 (幻水・ルカ坊)
坊=ダナ












「お手!」
「・・・・・。・・・・・お前、俺を何だと思っている?」
 ダナに差し出された手を忌々しげに見下ろしたルカ。
「ルカはルカだろう」
「・・・・・・・・。・・・・・だったらこの手は何だ?」
「え?挨拶の基本じゃないか」
「は?」
 何をいったいどうすれば、『お手』が挨拶の基本になるのか。
 それともルカが知らないだけで世間一般ではこれが基本的な挨拶としてまかり通っているのか・・・。
 だとすれば、この場合『お手』と言われた相手は・・・・この手の上に手を乗せるのか?
「本当に知らないの?」
「・・・・・・・・・」
 これだから王子様は、と言わんばかりにダナは首を横にふる。
 自分だって、ルカと似たようなものだろうに・・・だいたいダナはルカよりも年下だろう。いくら年を取らないと
 いっても解放戦争からたかだか3年しか過ぎていないのだから。
「このくらいの挨拶が出来ないとトランではやっていけない。いいかい、ルカ。まず人に出会ったら、”お手”て
 言われるから、こっちからも手をさしだす。そうしたら”おかわり”て言われるから、反対の手を差し出す。これで
 挨拶は完璧!」
「・・・・・完璧?それでか・・・・」
「郷に入りては郷に従え。その土地によって風習は色々違うのは当然。余計なトラブルを背負いこまないように
 するための処世術。了解?」
「・・・・・うーむ」
「簡単だろ。跪いて額ずいて挨拶しろっていうわけじゃないんだから」
「・・・・・・・わかった」
「じゃ、練習。はい、お手!」
「・・・・・・・・・」
 納得のいかないものを感じつつ、ルカは差し出されたダナの手の平にぱしっと己の手を置くのだった。






















「・・・坊ちゃん・・・」
「何だい、グレミオ」
「ルカさん、本気にしてましたよ」
「だろうね。ルカってさ妙なところで人を信じやすいというか、単純というか。王宮生まれの王宮育ちの箱入り王子
 だからねぇ。あれで狂皇子だって呼ばれてたんだから笑い話だよ。嘘に決まってるのにさ」
 ふふふ、とダナは笑ってグレミオがいれた紅茶を口に運ぶ。
「・・・・・・・・。・・・・・・・」
「グレミオにも言っておいたけど、近所の人たちにもルカに会ったらあの挨拶をするように頼んでおいたから、当分
 はバレないだろうね。ルカが、他人に”お手”してるところ、想像してごらんよ・・・・・・・・ぷっ」
「・・・・・・。・・・・・」
 (ああ、可哀想なルカさん・・・・・。
 でも私は坊ちゃんの従者。坊ちゃんの言うことは絶対なんです・・・・すみません。)
 楽しそうなダナをみやり、グレミオはそっとルカに同情した。
「当分ルカで遊べるな。あ、そうそう。門のところに”狂犬注意”とか貼っておこうか♪」
「・・・・。・・・・・ほどほどにして下さいね、坊ちゃん・・・」
 グレミオに言えたのはそれだけだった。










 半月後。
 嘘だったということを知ったルカがダナに殴りこみをかけ、返り討ちにされるのはまた別の話。







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