18.玉兎 (幻水/ビクトール&坊 【2終了後/運命の環・番外編】)
坊ちゃん=ダナ 2主=ローラント
「また、一人で出て行くのか?」 満月の青い光が地上を照らす。 声をかけた人物に背を向けた相手は、その光を受けぬとでも言うように闇に包まれていた。 「騒動も済んだようだし、いつまでもここには居られないからね」 穏やかに言葉がかえる。 「それに、どうせ君たちもどこかへ行くんだろう?僕だけどうこう言われる筋合いはないと思うけど」 「そりゃぁ・・・俺たちは傭兵だしな」 「僕は・・・ただの旅人」 「・・・・・」 「何か、文句ある?」 「・・・・・」 「まさか引き止めるとか言わないよね?」 「・・・一応、レパントにはそうしろと嘆願されたが・・・無理だろ」 「本当にねぇ、レパントも困ったものだよ。僕なんて死んだと思って気にしないでいてくれていいのに。あんな 部屋まで作って・・・近々、絶対に壊してやるよ」 「・・・・・。ローラントは、あいつらは・・・どうしたんだ?」 「ローラント?さぁ?三人仲良くそのへん歩いてるんじゃない?いちいち僕がそんなことまで知るわけ無いだろ。 心配しなくてもすぐに帰ってくるよ、あの子たちの故郷なんだからさ、ここが」 「あいつは王には向いてない」 「そうかな?独裁政治はしないだろうし、民と和気藹々やるいい王になるんじゃない?でも、そのうちこの国の 王政も廃止されて共和制に移行すると思うよ。それまでの期間限定だろうけど」 「やけにはっきり言うな。まるで知っているようだぜ」 くすり、と笑う気配がした。 「簡単なことだ。ビクトールはローラントのことを少し侮りすぎている」 「そんなことは・・・」 「そんなことは無い?外見が子供っぽくて、アホな発言が多いからって・・馬鹿にしちゃ駄目だよ?」 「・・・・・お前こそ、酷いことを言っているだろうが」 「僕はいいんだよ。まぁ、ビクトールがそう思うのも無理ないほど天然に馬鹿なところがあるのも確かだと思う けれど・・・僕と比べすぎてはいけないよ。同じ天魁星でも僕と彼は種類が違う。ローラントは優柔不断な 所もあって、シュウの言われるままに動いていたことが多かったけれど、最終的に決断していたのは彼だ。 兵を民を生かすも殺すも、その軍主の決断に委ねられる。それがどれほどのプレッシャーを与えるか・・・・ ローラントはちゃんとわかっていた。だから他の誰にもそれをまかせることは無かった。そんなこともわから ないほど、君は呆けていたのか・・・・ビクトール」 「・・・・言葉もねぇ。お前はちゃんと見ていたんだな・・・それとも見守っていたのか?」 すると、ビクトールの言葉にダナは背を震わせて笑い出した。 「くっくっく・・・もうっ、笑わせないでほしいな、ビクトール。僕はローラントを、見守っていたんじゃない」 ―――――― 見張っていたんだよ 「何」 空気が緊張した。 「僕が彼に手を貸したのは何も情に絆されたわけじゃない・・・僕を知っててそんな風に思うなんて、本当に らしくないよ。僕はローラントが告げた言葉が本当に貫き通されるのか、見張っていたんだよ」 「・・・・告げた言葉?」 「内容は教えてあげない。だけどこの国は運が良かった・・・ぎりぎりで彼はちゃんと誓いを貫いた。もし・・・ もし彼が僕との約束をたがえていたら・・・」 「・・・・・・」 ダナが月に己の右手をかざした。 それは月の青い光の下でも、禍々しい赤をに包まれていた。 「ダナ・・・」 いつの間にか握り締めていたビクトールの手にじっとりと汗が滲む。 「さて、いつまでも長居してたら厄介なのに捕まる。もう行くよ、元気でビクトール・・・その木の影に隠れてる フリックにもよろしく♪」 声にならない驚愕がダナの元に届く。 「・・ったく、お前も元気でな」 「もちろん。死に目ぐらいには会いに言ってあげるから、精々長生きしてよねv」 向けられた、麗しい笑顔に息をのむ。 月も雲に隠れ、闇が訪れる。 気づいたとき、すでにダナの姿は無かった。 |