お悩み相談室


++塙麒++





本日のお客様は、巧州国塙台輔です。
近頃のお悩みは何ですか?









「陽子様が私の主上ではないことです!」


 幼い麒麟の言葉に、問いかけた女仙が苦笑を浮かべた。
 女仙たちの中でも景女王の人気は他国の誰をも凌ぐものがあるが、塙麒においては憧れの君。
 蓬山への訪れを今か今かと日々を数えて過ごすほど。
 これで、自分の王をちゃんと選んでいただけるのかと女仙たちは少々不安を抱いている。
 だからと言って、景女王に不訪をお願いなどすれば大変なことになる。
 少し前に、国内が忙しく半年ほど姿を見せられなかったことがあったが、そのときの塙麒の意気消沈した様子、食事さえまともに喉を通らなかったほど。久しぶりに顔を見せた景女王に、そのことで叱られた塙麒は、『よく食べてよく寝てよく遊ぶこと』と約束させられていた。それが守られなければ二度と来ないと脅されては、頷くしかない。

「蓬山公は、本当に景王君がお好きでいらっしゃるのですね」
「ええ!だって、強くて美しくてお優しくて・・・凄い方です!!」
 塙麒の目がきらきらと輝いている。
「先日も、無理なお願いを快く聞いていただきました」
「・・・・・いったい何をお願いされたのです?」
 景女王も、真っ直ぐに慕ってくる塙麒に弱く、その願いを断ることはほとんど無い。
「字をいただきたいとお願いしました」
「蓬山公・・・」
 あまりに無邪気で、しかし有りえない言葉に傍に居た女仙数人が頭痛を覚えたように額に手をやった。
 それは本来、自身の主になる相手から受け取るものだ。
青蕾、です。成長し、逞しく咲き誇れるようにとつけて考えて下さったそうです」
「そう・・・それはよろしかったです、ね・・・」
「でも、その名前で呼ぶのは陽子様だけと固くお約束したので、私のことは今まで通りでお願いします」
「へ・・・え・・・はい」
 無邪気な麒麟に対して、景女王のほうはそれなりの分別がある。
 恐らく、塙麒に願われ大層困ったことだろう。
 困惑と諦めの入り混じった景女王の顔が浮び、女仙たちは東に向かって頭を下げた。

「次はいつ来て下さるでしょう?・・・私が慶に遊びに行っては駄目でしょうか?」
 とんでもない、と慌てて女仙は首を振った。
「やっぱりお邪魔でしょうか・・・?」
「そうではなく、もし出かけられた先で何かございましたら景女王も悲しまれます。蓬山公も、景女王が
悲しまれるようなお顔をされてはお嫌でございましょう?」
「いやです!私は陽子様を悲しませるようなことはぜったいにしませんっ!」
「でしたらこの蓬山でお待ち申し上げておりましょう」
「わかりました」
 ほっと胸を撫で下ろした。
 景王は景麒の主である。その主が他国の麒麟に自分の王もかくやというほどに慕われ、字まで戴いているなど、・・・彼にとっては非常に面白くないことに違いない。それが蓬山でならば、まだ範囲が限定されるだけに我慢もできようが、金波宮ともなれば他の耳目もある。
 キレた景麒がいつ蓬山に殴りこんでくるが、女仙たちは冷や冷やしているのだ。

「陽子様は私の王にはなって下さらないでしょうか・・・」
 夢見るように塙麒は呟く。
 それは無理だ、と言うのは容易い。だが、そうすれば間違いなく塙麒は傷つく。
 自国の民の心無い言葉で傷つき、笑顔を忘れ、宮に閉じこもっていた塙麒がこうして笑顔を見せるまでに回復してくれたのだ。ここで選択を誤れば元の木阿弥。
 女仙たちにとって一番大事なのは、世話をしている蓬山公だ。それ以外は二の次三の次。未来の塙王とて例外では無い。
「そうですわ、蓬山公。景女王にお手紙を差し上げてはいかがでしょう?」
「きっとお喜びになりますわ!」
 字の練習にもなり、一石二鳥だ。
「喜んでくださるでしょうか?」
「ええ!きっと!」
 女仙たちが一斉に頷き、塙麒も破顔する。
「では、そうします」
 俄然やる気になった塙麒に、女仙たちも慌しく文の用意をし、手伝いはじめる。







 その後、たどたどしい文章を受け取った女王が、返事を書き・・・文通が始まる。
 それを影でこっそり見て袖を噛んでいる景麒が居たとか居なかったとか・・・

















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・・・えーと、悩んでない?(笑)
塙麒、は『天の導引〜』初出のオリキャラです。
06’夏発行予定の本にも登場させられたら良いなぁと
思っております。彼は陽子にべた惚れです(笑)