お悩み相談室
++泰麒++
本日のお客様は 戴台輔です。
近頃のお悩みは何ですか?
何だか、その問いかけは前にも聞いた気がします。 その時には驍宗様も見つかっておらず、国としても自身としても悩みは満載でした。 でも実際には、驍宗様が国に戻って来られたとしてもやはり問題はあるんです。国はすでに傾きかけていましたし、無茶苦茶になりかけていました。それを元の平和な戴国にしようと思えば悩みは尽きません。国政に直接関わらない麒麟の僕がこれなんですから驍宗様の悩みは如何ほどか。案じることしかできない不甲斐ない己に忸怩たる思いです。 そんな悩みを聞いていただいてもただの愚痴ですし、解決する訳でもないのでできることを頑張るだけです。 え?身も蓋もない?……そう言われましても。 他には何か?ですか……うーん。 「高里君、お久しぶり。元気していたか?」 景王は……陽子は朗らかに泰麒を出迎えた。驍宗様を見つけて挨拶に訪れて以来の再会となる。 本日金波宮を訪れたのは泰麒と護衛の李斎の二人だった。 「ありがとうございます、陽子さん。僕は元気です」 「それは良かった。李斎も変わりないか?」 「お気遣い頂きありがとうございます。変わりなく過ごしております。この度はお忙しい中お時間を頂きありがとうございます」 「いや、そんなに堅苦しくしないでくれ。とは言っても中に居ては息も詰まる。庭院に出ようか」 「主上」 「景麒、難しい顔をするな。お茶会をするだけだ」 陽子の傍にいた景麒が眉間に皺を寄せて苦言を呈しそうになるのを手をひらひら振って振り払う。 景麒の扱いが雑になっている。 「二人ともこちらだ」 陽子が二人を案内した庭院には侍女たちによってすでに準備が整っていた。 「最近、懐かしい日本のジャンクフードを再現するのに凝っていてな」 卓の上に並べられているものに目を丸くしている泰麒に向かって陽子が悪戯っ子の笑みを浮かべる。 「景麒に見られるとまた何ぞ言われそうだからこのことは二人とも内緒に」 口元にそっと指をあてて二人を共犯にしでかそうとする陽子に戸惑いの視線を向ける。 「……仕方ありません。陽子さんがそう仰るなら」 「景主上の仰せのままに」 「だからそう堅苦しくしないでくれ。さあ、掛けて。高里君はわかると思うけど、李斎は初めてのものばかりだろうから説明するよ。おっと護衛だからとか言って遠慮するのは無しだ」 機先を制されて李斎は渋々泰麒の隣に座った。 「まず何と言っても外せない。これはポテトチップスだ!」 じゃーんと両手を広げて大皿に乗っている大量の薄いものを陽子はお披露目する。 「ぽ……?」 やはりと頷く泰麒の隣で半濁音の連続の言葉に首を傾げる李斎。 「芋を薄く切って油で揚げたものに、軽く塩を振った食べ物だ。食べ始めると止まらなくなる。この薄さを再現するのがなかなか難しかった、包丁では限界があるし。仕方ないので冬官に注文して専用の道具を作ってもらった」 「はあ……」 こんなことのために冬官まで動かした陽子に感心してか呆れてか、李斎はそれしか言えない。 「こっちはチキンナゲット。チキンと言っているが使っているのは豆腐だから麒麟でも食べられるよ。そのままでも美味しいが和風ソース、マヨネーズソースを準備した」 「手が込んでいますね!」 泰麒も興味を傾けてきた。それほどジャンクフードに親しんでいた訳ではないが懐かしい食べ物に楽しくなってきたのか。 「まだバーベキューソースは再現できていなくて、試行錯誤している最中だ」 特に料理知識に造詣が深いわけでも無い陽子なので、膳夫たちに記憶を頼りに伝えて頑張って貰っている。 「そして、ジャンクフードときたら外せない飲み物!炭酸飲料だ!」 「え、それも再現できたのですか!?」 泰麒の驚きの視線を受けて陽子は胸を張った。 「苦労したが、もともと炭酸水というのは自然界にも存在しているらしくてな。膳夫に相談してみたら、似た物を探してきてくれた。それが飲めるものなのかどうか冬官も居れて色々試してみた結果、最近問題ないとわかった。橘子の果汁を入れて飲みやすくしている」 「うわあ、凄いですね」 感嘆する泰麒に陽子も大きく頷いた。 「さあ!召し上がれ!無礼講だ!」 ポテトチップスをちまちま箸でつまんで食べるなど面倒だ。手づかみで、と。 陽子がそうすれば二人も従わずにはいられない。 ぱりっ ぽりっ。 独特の音が響く。 「はあ、塩加減もいい塩梅だ。うん、おいしい」 「まさかこちらでポテトチップスを頂けるなんて思ってもいませんでした。おいしいですね」 ジャンクフード経験者二人は慣れた様子でポテトチップスを口に運んでいる。 「李斎、どうだ?」 「あ、はい、その……初めての感覚ですがおいしいと、思います」 一口で食べればいいが、途中でぱりっと折れて李斎は慌てていた。 「ナゲットの、マヨネーズソースが僕は好きですね。ワサビがちょっと入っていますか?」 「そうなんだ!なかなか美味しいよね!」 ジャンクフードのもたらす影響か、ちょっと陽子の精神が女子高生に戻っている。 「炭酸のしゅわしゅわした感じも、久しぶりで懐かしいですね。そんなに飲んでいたわけではないですけど、楽しいです」 「この弾ける感じが苦手な人も居るからね。高里君は大丈夫そうだ」 「美味しいですよ。こういうのって偶に飲むと良いですね」 その言葉に陽子も我が意を得たりと何度も頷いている。 一方の李斎は未体験、初体験なその飲み物に吐き出しそうになりかけた。寸でのところで飲み下し、涙目になっている。 「李斎、大丈夫ですか?」 「あー刺激が強すぎたかな?」 「だ、大丈夫ですっ問題ありません!」 驚いたものの、意外にツボにハマってこれ以降、慶国を訪れた時には陽子にお願いするようになる。 「他にも考えているものがあるから、また遊びに来た時を楽しみにして欲しい」 「陽子さんは凄いですね。僕も頑張らないと」 「ふふ、泰麒は十分に頑張っているさ」 陽子の労りに溢れた言葉ともてなしに泰麒はふ、と力が抜けるのを感じ、知らず口元が微笑んでいた。 そして三人は穏やかにジャンクフードのお茶会を過ごすのだった。 前にも言ったことがあるとは思いますが、やはり僕にとって景王……陽子さんは特別な気がします。 同じ海客だからでしょうか。しかし同じ海客でも延王とは全然違う、と思います。 この感覚がどこからもたらされるものか、ゆっくり考えたいと思います。 戴国は、これからも続いていくので。 |
意外に驍宗様が早く発見されたので。
それとうちは全方位から矢印が陽子に向いているので!(笑)ご注意を。