仮想戯話

Ver.恭国







 官吏とやり合うことは日常茶飯事で珍しいことではない。
 聡明とは言え見た目通り子供である珠晶の知識は官吏より劣る。分からないこと、知らないことは素直に教えて貰おうとは思うが、その内容に偽り無いか判断するのは珠晶である。それがなかなか面倒だ。

「早急に周りを固めないとね…」
「珠晶?」
 独り言に反応したのは陽子だった。この場所で絶対に珠晶を裏切ることのない唯一の存在。
「何でもないわ」
「そろそろ休まなければ体に障る」
「そうね」
 もう少し書類に目を通しておきたいところだが…
「では臥床へ」
 陽子が否やを言わせぬ笑顔で手を差し出す。
「・・・・・・」
 その手を眺めて珠晶は心の中でため息をついた。いつか根を詰めすぎて堂室で朝を迎えて以来、陽子は珠晶が眠るのを見届けてから仁獣殿に戻るようになった。
「陽子、別にいつもついててくれなくても、ちゃんと寝るわよ」
「私が傍に居たら迷惑か?」
「そんなわけ無いでしょっ!そうでは無くて」
「私が珠晶の傍に居たいんだ」
 どこまでも天然で最強な陽子に絶句することは少なく無い。
「・・・仕方ないわね」
 素直でない珠晶はそう言うことしか出来ない。頬が染まっているのはご愛嬌。
 手を引かれて臥床に横になった珠晶は、傍の椅子を引き寄せて座る陽子を見上げた。
「見張って無くてもちゃんと寝るわよ」
「ああ。わかってる。だが私は可愛い寝顔がみたいんだ」
「っそ、そんなもの見なくていいわ!」
 今から寝ようというのに興奮させてどうするのか。
「もういいから、陽子も休みなさい。勅命よ!」
 こんなことを『勅命』するのもどうかと思うが、そうでもしないと陽子は珠晶と同じように休まない。
 知っているのだ。
 不慣れな『王』のために、陽子が一生懸命に動いていることを。
「…御意。おやすみ、珠晶」
「おやすみなさい」
 ぼんやりとした間接の明かりのみを残して、堂室は闇に閉ざされる。












「ちょ・・・・っ」
 目覚めた珠晶は、叫び声をあげそうになって慌てて手で覆った。
 こんなところで大声を出せば女官が飛び込んでくる。

(何で・・・何で陽子が私の隣で寝てるの!?)

 珠晶の隣には陽子がすやすやとお休みだった。しかも珠晶を抱きしめるように眠っている。
 その光景は傍目から見れば微笑ましい光景でもあったが、当人には驚愕の事態だ。
 いったい何がどうしてこんなことになったのか。
 問いただそうにも張本人は未だ夢の中。叩き起こすのも・・・可哀相な気もする。
(ああ・・・もう私ったらいつからこんなに甘くなっちゃったのかしら!!)
 陽子限定ではあるが。

 誰よりも美しく。誰よりも男らしく。誰よりも珠晶を愛してくれる。
 珠晶だけの麒麟。
 供王である珠晶の供麟。

「・・・絶対に長生きしてやるわ」

 珠晶は密かに決意した。
 













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