仮想戯話
Ver.恭国
2
「出たわね。悪党」 投げ掛けられた珠晶の言葉に相手は怒るでもなく苦笑を浮かべた。 「悪党は酷いなぁ」 「あんたなんか悪党で十分よ」 ふんと顔を背ける珠晶に周囲のほうが顔を蒼くする。 何と言っても大国奏の太子だ。 「し、主上」 気の弱い冢宰が額に汗している。気が弱いが空気を読まないので珠晶の精神攻撃も全く効かず官吏たちに今の立場に据えられたという曰くを持っている。 「で、何の用?」 「陽子に会い・・・」 「帰れ」 珠晶は速攻で拒否した。 「陽子はどこに?姿が見えないけど」 しかし敵もさるもの。全く気にせず問いを重ねる。 珠晶は沈黙したまま応えたい。ここで空気を読まない冢宰がその特技を発揮した。 「台輔はただ今夏官府にお出ましでございます」 「鈍慄(どんりつ)!」 「そう。なるほど陽子らしい・・では、会いに行こうかな」 「誰が会わせるものですか!」 ついに我慢ならなくなった珠晶が玉座から立ち上がる。 「ふざけんじゃないわよっ!この詐欺師!!」 次々飛び出す珠晶の台詞に、官吏の幾人かは失神しそうだった。 「ははは、珠晶は元気が良い。子供は元気が一番だからね」 亀の甲より年の功。利広も伊達に年を食ってない。珠晶の罵詈雑言程度は仔犬がじゃれている程度にしか感じないものだ。大人気なく腹を立てるものでも無い。 反対に『子供』という言葉に敏感に反応した珠晶の顔は怒りで真っ赤に変わった。 「この・・・っ」 「利広!」 ついに主上が爆発・・・というところで、声が掛かった。 「やぁ陽子」 「何故ここに利広が・・・賓客が来ていると聞いて戻ってきたんだが」 ええ。目の前のその人がその『賓客』です・・・官吏たちは心の中でそう呟いた。 「一応私は奏の太子だから『賓客』になるのでは無いかな?」 「ああ、そうか。そう言われればそうなのか」 そこは改めて気づく点では無い。利広は面白がってそう言っているが、陽子はどこまでも本気だ。 その二人の間に玉座から駆け下りてきた珠晶が割り込んだ。 「陽子に近づかないで!病気が感染る!」 「ん?利広はどこか悪いのか?」 「さぁ、自分では至って元気だと思っていたけれどねぇ」 利広は笑顔でそう言いながら、よいしょと掛け声をかけて珠晶をいきなり抱き上げた。 「!!!!っ!?!!?」 突然のことに目を白黒させて絶句している珠晶をよそに利広はさらに一歩陽子に近づいた。 「元気していたかい?」 「ああ。利広も相変わらずのようだ・・・出来れば珠晶は下ろして欲しいんだが」 「ん?・・・でもこうしていると何だか私と陽子と親子のように見えないかな?」 「は?」 「ふ ざ け る な・・・っ!!!!」 我に返った珠晶が、力いっぱい蹴り上げた足を巧みに避けた利広は『はい』と陽子に珠晶を渡す。 「え・・・ああ」 再び珠晶が固まる。顔を真っ赤にして。 「目の保養だ」 「当然だ。珠晶は可愛いからな」 堂々と言い放つ王馬鹿麒麟に、怒るべきなのか・・・湯気があがりそうな珠晶は言葉も無い。 「利広。暇なら久しぶりに相手をしてくれ」 剣の相手だ。色っぽい話では欠片も無い。 「私は良いけど・・・この子が何て言うかな?そうなると陽子を私が独り占めしてしまうことになるから」 「陽子!こんなのけちょんけちょんにしなさい!勅命よっ!!!!」 びしぃぃっ!と指差した珠晶に、陽子は不敵に笑った。 「主上の勅命とあらば、命をかけて果たしましょう」 珠晶を抱き上げたまま陽子はそう言い、その珠晶の頬に口づけた。 「珠晶の御心のままに」 |
利広に遊ばれて可哀相に・・・