仮想戯話
Ver.恭国
1
新しい王の姿に官吏たちは絶句した。 麒麟が選んだというのであれば王であることは間違いないだろう。 しかしあまりに幼すぎる。叩頭しながらも、隠れた顔には不審と不安を色濃く浮かべていた。 摂政が必要では無いかと冢宰は進言したが、王がはね除けた。 曰く、『うちに余計な人件費を払う余裕なんて無いでしょ』と。 そして訳立たずは容赦なく馘にすることを宣言した。 蒼くなったのは官吏たち。必死に王の機嫌を取り結ぼうと賄賂を持参したものは、そこで馘にされた。 一方で実績を上げた者は位と共に褒美も与えられた。 徹底した実力主義。それは古い体制に属する者たちに敵を作ることでもある。国とは巨大な生き物だ。彼らが王の意を汲んだように見せかけ、裏で笑っていようと見極めるのは難しい。 「そういう意味では私の容姿も便利よね。向こうが勝手に油断してくれるもの」 幼い少女を自分と同等の存在だと認識するのは難しい。無意識に保護するものと認識し、見下すのだ。 「珠晶は私よりも頭がいい。私でもわかるそれが何で彼らにわからないんだろう?」 「簡単なことよ。あいつらは見るからに子供が自分より優れているなんて認めたくないのよ」 「珠晶は王だ。それは民と天に選ばれたということ。侮るのは自らを貶めているのも同じだ」 本気でそう思っているらしい陽子に目を丸くした珠晶は、堪らず噴き出した。 「陽子は可愛いわね」 陽子は目を丸くする。 「そんなことを言われたのは初めてだ。珠晶のほうが私などよりずっと可愛いし、愛らしい。民も珠晶のことを知れば愛さずにはいられないだろう」 「〜〜っ!」 本気で言っているので性質が悪い。珠晶は顔を染めて絶句した。 「麒麟、て王馬鹿・・・?」 珠晶は思わず呟いた。 麒麟が聖なる存在であることはこの世界に住む者ならば誰もが知っている。 だが、その本質が何であるのか書きとめられたものは無い。そんなものを記録することは、無礼でもあるし不遜でもあるからなのか・・・はたまた、あまりの『王至上主義』っぷりに憚られたのか。 「・・・そういえば、延麒がそんなことを言っていた。所詮麒麟にとって一番大事なのは王だから、と」 「はぁ・・・」 「あ、そう言っていたことは延王には秘密だと言われていたんだ」 「・・・・・・」 珠晶は延麒に会ったことは無い。だが、屈折していることは間違い無いだろう。 「六太君・・・延麒の名だが、珠晶より幼い姿なのにとてもしっかりしているんだ。初めて会った時には驚いた。でも物知らずな私に麒麟についてわかりやすく教えてくれて助かった」 「・・・そう」 間違った知識を植えつけられていなければ良いのだけれど、と密かに不安を抱く。 「珠晶」 武官の衣装を身に纏った陽子は、珠晶の目の前に膝を折る。 「麒麟と王は二人で一人なのだそうだ。麒麟は王を支えるためにある。私のような麒麟では珠晶が不安を抱くのも無理は無いと思う」 「はぁ!?」 今の話で何故そうなるのか全くわからない。現時点で陽子に対する不満など・・・まぁ、あまり無い。 自己卑下が少々過ぎるので、もっと自覚を持って欲しいとは思っている。そうでなくば、同情する気は更々無いが陽子のために尽くそうとする女官たちが哀れだ。 「頭の悪い私に出きるのは珠晶に悪意をもって近づこうとする輩を排除するだけ。珠晶の足を引っ張らぬように精進はするつもりだが、どうか役立たずな私を許し傍に置いて欲しい」 「・・・・・・」 珠晶はそれは盛大に長く溜息をついた。 「陽子、一つだけ言っとくわ」 「ああ、何なりと」 「私は貴方に『許す』と言って王になったの。貴方だから許したの。そのことをよく考えてね」 「・・・・ん?・・・わかった」 本当にわかったのか。 (・・・いいけれど。時間はたっぷりあるのだから、この鈍い麒麟にはゆっくりと自覚させていけばいいわ) 「珠晶はとても慈悲深いな」 「・・・・・・・・」 前途多難だ、と珠晶は覚悟した。 |
夏の無料配布本で掲載した珠晶と陽子麒麟の
続き・・・になるのでしょうか。