仮想戯話
Ver.慶国(景麒尚隆)
「あいつは麒麟じゃない。俺は断じて麒麟だなんて認めないからな!」 そんな台詞を景麒に対して言ったのは隣国の王だった。 慶国の麒麟、景麒は型破りな麒麟である。むしろ初めから型なんてものがあったのかさえ疑わしい。 怖いのはそんな『麒麟』しか見たことが無い陽子の認識だった。 間違ってもあんなものが『麒麟』の常識だと思われては困る。 そう思い、自国の麒麟を連れて慶国に行こうと計画した延王だったが側近から待ったがかかった。 これには再び延王は頭を抱えた。 確かに隣国の麒麟に比べれば麒麟らしい。剣を持つわけでも無いし、血にも弱い。むしろ色々ひ弱い。 それが麒麟だと言われればそれまでだが、問題はそこでは無い。 「あの、仏頂面はなあ……」 「台輔は真面目ですから」 「良く言えばだろ。単に愛想の欠片も無面白みも無いだけだ」 「台輔に直接それを仰るのはおやめ下さい。眉間の皺が深くおなりですから」 「景麒を見習えとは言わないけどさあ、もうしょい臨機応変って言葉を覚えたほうが良いんじゃないのか?」 「台輔はあれでよろしいのです。主上が『ちゃらんぽらん』ですから」 「はあ!?俺のどこが!」 心外だと叫ぶ延王を側近が冷ややかな眼差しで眺めた。 「私は景台輔より、寧ろ主上が景王君に悪影響を及ぼすのでは無いかと危惧しております」 「何で俺なんだよ!俺と陽子は仲良しなんだからな!」 「……」 その台詞を延王の外見年齢通りの子供が言ったなら微笑ましいが、中身が五百歳を越えていればそろそろ呆け始めたのかと心配をしなければならない。 「文句あるか?」 「……景台輔に闇討ちされませんよう」 「……それ冗談にならねーから」 景麒は己の王に関することは隙間があるのかと思えるほどに心が狭い。 くしゅんっ! 室内に響いたくしゃみに、誰よりも素早く動いたのは景麒だった。 「陽子」 「な、何」 いきなり至近距離に近づいたかと思うと、手を握り、目に触れる。 「風邪の症状は出ていないな」 「……お前はいつから医者になった」 「例え医者といえど俺以外の男が陽子に触れるのを見過ごせと?」 夢見る少女ならばぽっと頬を染めるところだが、陽子はただ鳥肌が立った。 そういう扱いには慣れていない。 「誰か陽子の噂をしているのかもしれん。……俺の陽子を無断で話題に乗せるとは万死に値する」 「……」 こいつ本当にどうにかしたほうが良いのでは無いだろうか。 そう思い、浩瀚に視線を向けるが穏やかに頷かれて終わった。丸投げされている。 景麒については、完全に陽子担当らしい。最近それが一番の仕事である気もしてきた。 「景麒」 「尚隆、と」 「……尚隆。いいから仕事しろ。それが終わらなかったら部屋には入れないからな」 陽子の隣室に居たはずの景麒は、最近何故か陽子の部屋まで侵食している。 大型犬が居る、そう思うことにしている。 「終わらせたなら何かご褒美をくれるのか?」 寧ろ陽子が欲しい。 「明日散歩に行こう」 「俺に乗って?」 「……そうだな」 「では、張り切るとしよう」 景麒のやる気とは反対に、陽子のやる気は失せた。 |
景麒の言動は計画的犯行だと思われます(笑)