春宵
‐しゅんしょう‐
13
【ATTENTION!!】
とってもパラレルです。
陽子が高校生(中学生)です。一応。でも最強です(は?)
陽子を今の設定で高校生にしてみたかったんです!
ちょっとした出来心だったんです・・・・・・
以上。
みーん、みーんと蝉が鳴く。 仰いだ空は白むように輝き、目を貫いた。 「まぶしっ……」 手をかざして、目の前に日陰を作る。 「まだ七月に入ったばかりだというのに、暑いな」 自宅の敷地にある道場で日課の朝練を終えた陽子は肩に掛けていたタオルで汗を拭う。 シャワーを浴びて学校に行く準備をしなければならない。 「陽子様」 忍やかに音もさせずに近づいてきたのは陽子付きの執事である景麒だった。朝からどんな災難があったのかという仏頂面を晒しているが景麒にとってはこれが通常だ。彼の辞書に愛想笑いという単語は存在しない。 「おはよう、景麒」 「おはようございます。本日のスケジュールですが」 まだ中学三年の陽子に通学以外のスケジュールなどほとんど無い。しかし毎朝こうして景麒は律儀に確認をしてくる。陽子も自分が融通のきくタイプでは無いと思って言えるが景麒はそれに輪をかけている。 「朝食の席には旦那さまも着かれるとのことです」 「そうか、楽しみだな」 忙しい父親と食事をしながらゆっくり会話をできる機会は少ない。父親のほうは出きるだけ陽子との時間を作るように頑張ってくれているようだが無理はして欲しくない。遠慮がちな陽子に常々父親は「もっと我侭を言っていいんだよ」と声を掛けてくる。陽子ももう中学三年だ。大人だとは言わないが聞き分けの無い子供では無い。我侭を言ってと言われても困る。 部屋に戻った陽子はシャワーを手早く浴びると準備されていた制服に袖を通す。中学から大学まである蓬莱学園の中学と高校には制服がある。そしてリボンで学年を見分けているのだが中学三年は紫色のリボンをつける。蓬莱学園の女子中学生にとってこの紫色のリボンをつけることはちょっと大人になった気がして誇らしいらしい。陽子にはよくわからない感情だ。 陽子にはそういう感情の起伏に乏しい。よく言えば冷静沈着、悪く言えば可愛げが無い。 「おはようございます、父様」 食堂の入るとすでに父親が着席していた。 「おはよう、陽子」 いつものように朗らかに笑っている。陽子は父親が何歳かしっかりと聞いたことが無い。一見すると若輩者と呼ばれそうに若く見える。けれどただの若者だと侮れない老生している雰囲気もある。 今日の朝食は父親が居るせいもあるのか和食のおかずが並んでいる。自分以外の誰かが、それも給仕されつつ食事をとることもすっかり日常となった。 「陽子。学園の校則に髪は纏めないといけないなんていう項目があったかな?」 「はい?……特に無かったと思いますけど」 じっと陽子を見ていた父親からの突然の質問に首を傾げる。 「いや、いつも陽子は髪を三つ編みにして纏めているから」 「あ、はい……髪も長くなって邪魔なので」 切ってしまうことも考えたのだが周囲から猛反対を受けて今のところは我慢している。 「もう切ってしまってもいいかなと思っているんですが」 「ダメ」 「え……」 父親らしからぬ電光石火の否定が返って来た。 「確かに陽子は短髪も似合うと思うけど、せっかく綺麗な髪を切ってしまうのは残念だ。本当は纏めずに流してくれているともっと綺麗だけど」 「綺麗……ですか」 陽子は己の髪が好きではなかった。特にその色が。だからいつも目立たないように纏めている。 ――― 気持ち悪い!私を見ないで! 「そう。まるで深紅の薔薇が咲いているように美しいよ」 フラッシュバックのように蘇る呪言に暗く沈みかけていた陽子は父親の言葉に視線を上げた。 「……父上、それは褒めすぎでは」 「全然。足りないくらいだよ。陽子、君は自分が美しいという自覚を持ったほうがいい」 「……」 陽子はその言葉になかなか素直には頷けない。己が醜いとは思わないが美しいとは欠片も思わない。ごく平凡な容姿だと思っているのだ。父親の言うことは親の欲目もあるだろう、と。 ふと父親が苦笑を零す。 「私は陽子が心配だよ」 「……?」 「こんなに小さかったレディがどんどん大人の綺麗な女性になっていく。しかも自覚が全然無い」 小さいというくだりで親指と人差し指で形を作る。陽子がそんなに手乗りサイズに小さかったことは無い。 「父様は大げさ過ぎます」 「陽子には大げさ過ぎる程度で丁度良いと私は思っているよ。私の大切な娘だからね」 「……」 そう言われると陽子は何も言えなくなっしまう。 「さて、今朝は陽子と話ができて良かった。陽子も中学三年で色々忙しいだろうけれど体調管理はしっかりね」 「はい」 そろそろ登校の時間である。 |
まだ中学生の陽子です。
執事な景麒は陽子が中嶋家に来たときからの付き合いです。