春宵
‐しゅんしょう‐
12
【ATTENTION!!】
とってもパラレルです。
陽子が高校生です。一応。でも最強です(は?)
陽子を今の設定で高校生にしてみたかったんです!
ちょっとした出来心だったんです・・・・・・
以上。
陽子の婚約者が決まり、顔合わせということで父と陽子と相手の休みが調整できた日曜日は曇りだった。 あまり堅苦しいのも、ということで某ホテルのレストランで会うことになっており陽子はそこに向かっている最中である。 当然のことながら陽子は車で父親とともにホテルまで送迎される予定だった。 予定が狂ったのは父親に急な仕事のトラブルで呼び出しが掛かったせいだ。滅多に無いことがこんなタイミングでブッキングするとは考えてもいなかった。父親は仕事を約束の時間までには終わらせてすぐに駆けつけると危機迫る勢いで陽子に宣言した。しかしここでまた問題が。何と送迎に利用していた車が使う予定の一台以外全て修理や点検に出してしまっていたこと。 「ああ、それなら私は歩いて行くから。車は父の送迎に使うといい」 あっさりと陽子はいい、待ち歩きしながら目的地のホテルまで向かうことにした。 陽子は良家の子女だが電車に普通に乗れるし、街を一人で歩くことにも抵抗は無い。いつもの陽子ならば特に問題なくホテルまでたどり着いたことだろう。しかし、一つだけ陽子は失念していたのだ。 初顔合わせということで陽子は一応余所行き仕様でいつもより飾り立てられていた。 隙あらば陽子を飾りたてようとチャンスを伺っている屋敷のメイドたちがこの機会を逃すはずが無い。 そんな陽子が街を歩けばどうなるか。 「君、すごく可愛いね。ちょっといいかな?」 「はい?」 可愛い?誰が? 陽子は周囲を見渡した。生憎と本日は誰も一緒では無い。つまり今の声は陽子に掛けられたものらしい。 「……私、ですか?」 「そうそう。君」 声を掛けた二十代前半ぐらいのそこそこに見られる容姿の茶髪の男が笑顔で頷いた。 メガネは掛けていないが、もしかすると近眼なのかもしれない。 知り合い、では無いはずだ。父親の仕事の付き合いで会ったことのある相手にも居ないし、当然十代しか集まらない学校に二十代の男が居るはずも無い。 「私に何か?」 「この後時間ある?あったら美味しいカフェがあるんだ。一緒にどう?」 「……結構です」 凄くセオリー通りなナンパ文句に陽子は呆気にとられつつお断りした。 そのまま立ち去ろうとした陽子だったが、腕を捕まれて引き戻される。 「ねえ、そう言わずに行こうよ!」 乱暴なそれに陽子は眉をひそめながら、あっさりと腕を振り払う。 「私はこれから予定が入っている。付き合っている時間は無い」 「ちょっと怒った顔も可愛いね!」 全く空気の欠片も読まない男に陽子は眩暈がした。周囲には今まで居なかったタイプだ。 陽子はこのまま無視して目的地のホテルに向かうことにした。 ……したのだが。 「ねえ、何て名前?どこ行くの?」 男がずっとついて来る。 このまま、まさかホテルまで付いて来るのだろうか。 「……いい加減にしてくれないか。警察を呼ぶぞ」 「あ、やっとこっち向いてくれた!」 喜んだ男が笑顔のまま身を屈め、そっと囁いた。 「君に一目惚れしたんだ。俺と付き合って」 「……」 陽子は無表情のまま真偽を見極めるように笑顔の男をじっと見つめる。 言動の軽さに反して表情からその裏を読み取ることは出来ない。裏表が無いとも言えるかもしれない。 「残念ながら」 陽子と男の間に誰かが割って入った。 見慣れないスーツを着こなした広い背中は見た覚えがある。 「彼女は俺の婚約者だ」 「小松……さん」 先生と呼びかけそうになって変える。少しだけほっとした。 これでよくわからない男から解放される、と。 ところが。 「えーっ!俺のほうが絶対にお似合いだって!」 どこから来るんだ、その自信。 男の諦めの悪さと自信に陽子は感心しながら呆れた。 「ね、君もそう思うだろう?」 「……全く」 「ほらっ!」 今のは否定だ。何故肯定と受け取る。 同じ日本語を話しているのかと疑わしくなってきた。もしや今まで通じていなかったのか、と。 だんだん疲れてきた。 (……家に帰りたい) そんな陽子は想定外の事態が襲う。 ふわり、と体が浮いたと思ったら尚隆に抱き上げられていたのだ。 「……っ!!」 咄嗟のことに驚きに目を見開き、腕の中から尚隆をまじまじと見つめると、にやりと笑う。 この状況を楽しんでいるようだ。 あの父に若くして評価されているだけあり、この程度のことでは動じないらしい。 それが、陽子は悔しい。 「俺の姫君だ。貰っていく」 そう宣言した尚隆は男を見る。抱き上げられている陽子には尚隆がどんな目をしているのかわからない。 だが笑顔のまま男は沈黙し、固まった。 「ちょっ……降ろしてくださいっ」 すたすたと歩いていく尚隆は、このままホテルまで突入するつもりなのか。 そんなことをすれば注目を浴びるに決まっている。冗談では無い。 「あの男が見えなくなるまで大人しくしていろ。お転婆娘」 「おてん……何故そうなるんですか」 「大人しく家で待っていればいいのに、一人で外に出るからこういうことになる」 「一人歩きはこれが初めてではありませんし、この事態は偶々です。私のせいではありません」 「ある意味お前のせいだろうが」 「……そんなことは、ありません」 ふん、と鼻で笑われる。 こうして抱き上げて運ばれるなど何年ぶりだろうか。周囲の視線が痛い。 「おやおや、すっかり仲良しだねえ」 「っお父様!」 ホテル前まで来たところで車から降りた父親にバッチリ目撃されてしまった。 「降ろしてくださいっ!」 「尚隆、陽子が嫌がっているようだから降ろしてあげてくれるかな?」 「照れているだけだろう?」 「嫌がってますっ!」 暴れだした陽子にさすがに尚隆も腕から陽子を降ろした。 「どうも……ありがとうございました」 一応、不本意ながらも助けて貰ったことは確かなので頭を下げておく。 「陽子、何があったんだい?」 「いえ、別に大したことでは……」 「男にナンパされて付き纏われていた」 「っ!」 しかし陽子が沈黙していてもここにはペラペラとしゃべる尚隆が居る。 「陽子……」 「すみません」 一人で平気だと家を出ただけに居た堪れない。 「無事で良かったけれど、もっと気をつけなければいけないよ。陽子は可愛いんだから」 「私が可愛いかどうかは別にしても、もっと気をつけます」 一撃で撃退できるように、と拳を握る陽子の『気をつける』という基準が違いすぎる。 「あまり危険なことはしないようにね。陽子が傷ついたら私が悲しいよ」 「……はい、気をつけます」 「まあ傷物になったとしても俺が貰うがな、痛い思いはしないほうがいいだろう」 「傷物だなんて失礼な言い方だね、尚隆。まだ陽子をはっきり君に嫁に出すとは決めていないよ」 「決まったようなものだろう」 薄笑いを浮かべる父と人を食った笑みを浮かべる尚隆。どっちもどっちだ。 (……お腹すいた) そして陽子はまだまだ色気より食い気。花より団子なのだった。 |
んー途中でナンパ男が現れたことで考えてた話と違う……けど。
まあいいか。
舅婿戦争が勃発しそうです。