春宵
‐しゅんしょう‐
8



【ATTENTION!!】
とってもパラレルです。
陽子が高校生です。一応。でも最強です(は?)
陽子を今の設定で高校生にしてみたかったんです!
ちょっとした出来心だったんです・・・・・・

以上。






 今年もこの日が近づく。
 男子生徒にとっては天国と地獄の分かれ目。女子生徒にとっては一大イベント。
 そわそわ、そわそわ。
 その落ち着きの無い空気は興味が無い者をも落ち着かなくさせる。

 ここ私立蓬莱学園高等部生徒会、その会議室では主用な面々が顔を揃え話し合いを行っていた。
「陽子様……ごほん、中嶋さんの申請は上がっているか?」
 ついいつもの呼び方で陽子を呼んでしまった生徒会長……浩瀚を胡乱げな眼差しで眺めた副会長祥瓊が口を開いた。
「陽子は申請していませんけど、私が出しておきました」
 グッジョブ!
 一堂は胸中でサムズアップした。
 さて現在議題に上がっている申請だが、これは蓬莱学園ならではの設備がというより、それが存在していないことが関係してくる。
 この時期、そうバレンタインデーというこの時期。思い浮かべるものと言えばチョコレートだろう。
 そしてチョコレートと言えば告白。その告白を伝える場所と言えば?……由緒正しき下駄箱、だ。
 だが残念なことにここ蓬莱学園には下駄箱なるものは存在しない。良家の子女が出入りするこの学園では基本的に靴を脱いだり履いたりは運動や特別な活動などを除外して実行されない。
 だから下駄箱なるものが存在しないのだ。何という一大事。蓬莱学園に通う乙女たちは色めき立った。
 どうやって自分たちの思いを伝えれば良いのか!直接言え?それが出きるなら苦労しねーよっ!!
 ……殺気だった乙女に睨まれ、理不尽を感じたのは男子ばかりでは無いだろう。
 どもかくそんな状況に乙女たちは考えた。下駄箱が無いとなるとあとはもう……そう教室に設置されている個人ロッカーしかない。しかし残念ながらここも個人ごとにセキュリティ管理されていて当人以外は開くことは出来ない。仕方なく乙女たちはメッセージカードと共に教室の当人の席に置くことにした。朝誰よりも早く来て当人が来ない間に置いて逃げる。
 ……どこの忍だろうか。
 そんな光景が蓬莱学園では風物詩となっていた。
 しかし。しかしである。ここに中嶋陽子という前代未聞に人気を誇る存在が現れた。
 彼女は……そう彼女は女だありながら歴代のどの男たちよりも女子の人気を掻っ攫い、不動のものとした。
 高等部にあがった初めてのバレンタインデー。中嶋陽子の教室は恐ろしいことになっていた。

 教師がやって来た時、生徒たちは廊下に並んでいた。
「おい、何してる?授業始めるぞ」
「いえ、先生……入れません」
「はあ?」
 教師が教室を覗き込む。そこには……綺麗にラッピングされた袋が教室を埋め尽くしていた。顔が引き攣る。
「何の嫌がらせだ?」
「たぶん、バレンタインデーです」
 隣に居た生徒が教えてくれる。
「……は?」
 教師は差し出された一つの袋に目をやる。メッセージカードには『拝啓 中嶋陽子様』と書かれている。
 当人も生徒たちの中で途方に暮れた表情を浮かべている。教師の視線に気づき、陽子が近づいてきた。
「先生……すみません」
 別に陽子が悪いわけでは無いが申しわけなさそうに頭を下げる。
「まさか……全部か?」
「全て確認が出来たわけでは無いので、全てでは無いとは思いますが」
 ほぼ陽子宛なのだろう。色々な意味で凄まじい。
 羨ましいような可哀想なような。

 そんな事件が……通称『2.14事件』が起こった翌年から生徒会は特別に思いを告げる乙女たちのために臨時ボックスなるものを設けることにした。そんなもの要らないというのが大多数の男子生徒であるのだが、やはり何人か陽子ほどでは無いが机の上に積み上げられて迷惑を被っていた者たちが居た。彼等は自分たちもそれが使えるように申請を出した。
 こうして毎年この時期になると使用許可申請が生徒会に上がってくることになった。
「今年は高等部最後のバレンタインデーですから、二部屋確保した上で一部屋埋まったら都度搬出をかけるように業者に手配しておきました」
 祥瓊に抜かりは無い。
 搬出されたチョコレートたちは中嶋邸に運ばれ執事の厳密なチェックをパスしたものだけが陽子に渡される。

「今年もつつがなく、14日が終わることを祈っておこう」
 何かあれば動くことになるのは生徒会だ。
 どうか無事に終わってくれますように、と一同は浩瀚の言葉に頷くのだった。





 一般的にこういうのをフラグ、と言うらしいが。










バレンタインだから!!(笑)