春宵
‐しゅんしょう‐
3



【ATTENTION!!】
とってもパラレルです。
陽子が高校生です。一応。でも最強です(は?)
陽子を今の設定で高校生にしてみたかったんです!
ちょっとした出来心だったんです・・・・・・

以上。





『おいで。今日からよろしくね』
 差し出された目の前の手に、おそるおそる手を伸ばした。
 大きくて、温かい手だった。









「陽子様、本日は如何なさいますか?」
 いつものように朝食をとった後に執事が予定を確認しにやってきた。
 平日は学校があるので予定は決まっているようなものだが、休日にはそのぶんの予定をこなす必要がある。
 特に現在は当主不在のため陽子が当主代理として動くことが多い。
蔡家の方から先週アポが入っていただろう」
「蔡家と言うと珠晶お嬢様ですか」
「ああ。私が暫く忙しかったものだから全然会えていなかっただろう。私も珠晶に会いたいと思っていたから」
 丁度良かったと陽子は笑う。少し年の離れた友人である珠晶を陽子は可愛がっていた。
「左様でございますか」
「ああ、だから蔡家に行ってくる」
「畏まりました」
 挨拶の見本のような姿勢で執事である景麒は頭を下げた。



 珠晶に会うのは実に半年ぶりだ。
 お土産は何が良いかと考えて、動物好きな珠晶のために特大のぬいぐるみを用意した。
 抱えるほどのクマのぬいぐるみだ。
 テディベアでは無い。「クマ」だ。
 そのぬいぐるみは一見するともふもふしたぬいぐるみ特有のフォルムから「可愛い」と言いそうになるが、その顔に視線を向けると「か……」と言いかけた言葉を誰もが止める。
 一言で言うならば、「ふてぶてしい」、だ。
 陽子のそのチョイスに祥瓊も鈴も微妙な表情となったが本人は至って真面目である。
「ただ可愛いだけのぬいぐるみなら幾らでも手に入るが、こんな顔のクマは滅多に無い。きっと珠晶も喜ぶ」
 むしろ怒るのではと二人は思ったが、引き下がる気配の無い陽子に諦めた。
 そんな大きなプレゼントを隣に乗せて、車は静かに蔡家へと入って行った。

「お待ちしておりました、陽子様」
 陽子を出迎えてくれたのは執事の供麒だった。
 がっしりとした体格は威圧感を与えがちだが、物腰の柔らかさと声にも現れる人の良さに打ち消される。
「珠晶は?」
「はい、陽子様の到着を今か今かと昨夜からもう落ち着か……」
「余計なこと言わなくていいからっさっさと通しなさいっ!!」
 奥から甲高い少女の声がぴしゃりと飛んでくる。
 相変わらずのようだと陽子の顔にも笑顔が浮かんだ。
「後でお茶をお持ちします」
「ああ、よろしく」
 珠晶は部屋に居るのだろう。勝手知ったるでは無いが、案内されなくてもわかるので陽子は一人で部屋まで歩いていってしまう。腕には相変わらずあのぬいぐるみを抱えて。
「珠晶、開けてくれないか?」
「何よ、扉ぐらい自分で開けなさいよ」
「その腕が埋まっているんだ」
「……仕方ないわね」
 扉に近づく足音がして、静かに扉が開かれる。
 ちょっと拗ねたような表情を浮かべた珠晶がそこに居た。
「久しぶり、珠晶。相変わらず可愛いな」
「っ会った早々お世辞は結構よっ!」
「私は世辞を言うほど気がまわる人間では無いのは珠晶が良く知っているだろう?」
「そんなのっ……それより何よそれっ!」
 頬そ染めた珠晶が陽子が抱えているものに視線をやる。
「珠晶へのお土産だ」
「……私、ぬいぐるみを貰うような子供では無いわよ」
「わかっている。珠晶はもう立派なレディだから。私なんかよりよほど、ね」
「~~~っだったら!」
「これを見てくれ」
 陽子は抱えていたぬいぐるみを珠晶の眼前に差し出した。
「何……え」
 直面したクマのぬいぐるみに珠晶は絶句した。
「似ていると思わないか?」
 陽子がちょっと悪戯っぽく付け加える。
「ちょっ……ぷっ」
 珠晶もその言葉に思わず吹き出した。
「この顔を見て、買うしかないと思ったんだ」
「っっ!!」
 笑いのツボに嵌ったらしい珠晶が腹を抱えた。
「名前は何にする?」
「……っ決まってるわっ!!」
 即答だった。


 ちなみに無事に珠晶に貰ってもらえたクマのぬいぐるみは『頑丘』と名づけられた。
 名前の由来は蔡家の警備主任の頑丘である。














ぽろぽろ、登場人物追加。