● 女子会 ●
新緑の若葉が風になびいて、しゃらしゃらと音をたてる。 心地よい日の光に目を閉じると深く息を吸い込んだ。 「いい天気だ」 「そうね」 「確かに」 陽子の零れ落ちた一言に反応したのは、稚い印象の残る少女と聡明そうな女性である。 「絶好の女子会日和だわ!」 聡明そうな女性が拳を握った。 「本当、兄様を撒くのがどれだけ大変だったか……いらないところでばかり目敏いのだから」 大国奏の公主である文姫の言葉に陽子が苦笑を浮かべた。 「一度騎獣と同じように調教してみるといいかしら?」 恭国の女王様珠晶が冗談とは思えない物騒なことを言うのに顔を引き攣らせる。 今日は前々から話していた三人の女子会……というよりはピクニックにやって来ていた。 場所の選択は何かおかしいが、三人は本気である。 妖魔や妖獣が跋扈し、昇山者には恐怖の代名詞である黄海も三人にかかるとピクニックの場所となる。 騎獣に乗って空から黄海にアタックした三人は開けた場所を見つけて腰を下ろした。 「奏国の名物を詰めこんできたからいっぱい食べて頂戴」 文姫が携えていた荷物を下ろし中身を披露する。 「色鮮やかだな……」 「食事は目でも楽しまないと」 そのあたり大ざっぱな陽子はふんふんと感心している。 「珠晶もたくさん食べて。これなんか私のお勧めよ。ほんのり甘味が効いててとても美味しいの」 「じゃ、それいただくわ」 文姫が甲斐甲斐しく小皿に取り分ける。 「陽子はどれにする?」 「では私はその緑の……」 「これね。はい」 ここには三人以外誰も居ない。侍女も居なければ小姑のような麒麟も居ない。 誰憚ることなく地べたに座り、好きなように好きなものを食べる。 陽子も水筒に入れてきた白端を取り出し、二人に分けた。 「あら……」 さっそくそれを一口含んだ文姫が口を押えて驚く。 陽子がしてやったりとほほ笑んだ。 「とても冷たいわ……どうして?」 煎れたては熱くてもここまで来る途中で冷めてしまうだろうが、そんな冷たさではない。 ひんやりとしたお茶に首を傾げる。 「本当だわ。陽子、何したの?」 珠晶も詰め寄る。 「そこまで期待されるものでも無いんだが……この水筒は二重になっていてこの外側の隙間に水を入れて凍らせておく。そして内側にお茶を入れれば冷茶の出来上がりだ」 確かに話だけ聞けば非常に簡単だ。 だがしかし。 「凍らせてって……今はもう初夏よ。どうしてまだ氷が溶けてないの?」 「それは……」 「「それは??」」 陽子がにこりと笑い、人差し指を口元に添える。 「企業秘密、だ」 「「……は?」」 目を丸くした二人。 態勢を崩しかけた珠晶が陽子ににじり寄る。 「ちょっと期待させておいて話さないなんて有りえないでしょ!」 「そうだわ、。陽子教えて」 白状しろと二人に強請られて陽子は困ったように頬をかく。 「何。そんなにしゃべれないこと?慶国の秘密なの?」 「いや、というよりは……この氷はそもそも冬に作ったものなんだ」 それで、と話を促す。 「で、出来上がったものを使令に頼んで一緒に遁甲して貰っていた」 「「・・・・・・・・・・・・は?」」 「もしかしたら使令が遁甲している場所は物質の状態が保たれるのかもというちょっとした出来心でやった実験なんだが、上手くいったみたいで・・・・・・」 文姫も珠晶も呆れたように口が開いている。 「だからまあ、公に言いふらせるものでも無いから企業秘密っていうことで」 「当たり前じゃないっ!そんな顎で使令を使うような真似誰が出来るっていうのよ!」 「……本当、相変わらず陽子は驚くようなことを仕出かすわね」 感心するやら呆れるやら。 三人は顔を見合わせ、笑い出した。 「またやりましょうね!楽しかったわ」 「また参加してあげてもいいわよ」 「そうだな。また三人で集まろう」 またいつかどこかで。女子会を。 |