■ 温かい春 ■









 かの人と過ごす日々というのは、陽だまりのように穏やかとは決して言えず激しい夏の日差しほど容赦が無いかといえばそうとも言えず……

「俺の顔に何かついているか?」
「いえ……」
「いい男で見惚れたか?」
「……まあ世間一般では良い部類に入るのでは無いでしょうか?」
 人の美醜にはとことん疎い陽子にはわからないが。
 顔の好みで言えば、陽子は延王より楽俊のほうが好きだ。落ち着く。
「世間一般などどうでも良い。ではお前は何故見ていたんだ?」
 問われて陽子は眉を寄せた。
「特に意識していた訳ではありませんが……そうですね。延王ならば太陽に例えられることも多いのでは無いかと?」
「は?」
 陽子の脈絡のない言葉に今度は延王が眉を寄せた。
 何故そんなことを考えたのかと問われても陽子も困る。何となく思いついたのだ。
 ああ……珍しくほのぼのしているせいかな。
 良くも悪くも延王と過ごす日々というのは何かしら騒動が起きている。
 それを解決するために奔走しているので、穏やかとは程遠い。
「今日の菓子は如何ですか?甘みを少なく作ってみたのですが」
 慶の特産物である儲胡(チョコ)である。
 この実が初めて路木になり収穫した時に何かと尋ねられて陽子は「チョコ」と答えたのだが、こちらにカタカナは無い。
 仕方なく思いっきり当て字となった。
 当初この黒い実を皆が遠巻きにしていたのだが、食べる方法を工夫すると爆発的に広まった。国内だけでなく国外にも絶大な人気を誇っている慶国の特産物だ。
「なかなか旨い。俺は普通のものよりこちらのほうが好みだな」
 甘さ控えめビターのチョコレートは延王のお気に召したらしい。
「お口にあって何よりです」
 この場に居るのは延王と陽子だけ。
 茶の用意をした後、邪魔をしてはならずと皆が下がっていった。
 何もそこまで気を遣ってもらう必要は無いのだが。
「花茶とも合いますよね」
 チョコレートの後口が花の香りですっきりとする。
「それで?」
「それで、とは?」
「何故そんなことを考えたんだ?」
「……小春日和、だからでしょうか」
 だから露台でお茶をしようということになったのだが。
「貴方と居るというのにあまりに平和なものですから……少し落ち着きません」
「まるで俺が役病神のような言いようだぞ」
「まさか」
 陽子はそうです、とはとても言わないが隣国では側近たちや麒麟に間違いなくそう思われているだろう。
「ただ延王と居ると退屈する暇も無いですから」
「退屈は王を殺すからな」
 六百年を生きた王の感想ならば、そうなのだろう。
 あいにく陽子は登極して以来、退屈する暇も無い日々を送ってきたのでわからないが。
「お前は俺以上に退屈とは無縁だろう」
「まさか。まだまだ延王には追いつきませんよ」
 そういう余計な予言のようなものはやめて欲しいと本気で陽子は思う。
 好きで波乱万丈な人生(神生?)を送っているわけでは無い。

「陽子」

 延王が陽子の笑いかけ、茶杯を傾ける。
「偶にはこうして二人でゆっくりと過ごすのも良かろう」
「……そうですね」
 陽子もゆうるりと微笑んだ。















冬なのに春の話を書いてみる。