濫 觴
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楽俊は自室で鳴賢に向かい合っていた。 「おいら友達と約束してたんだ。卒業したら慶で働くって」 「何で慶?お前元々巧の人間だよな?」 だから巧の官吏になるというのならまだわかる。 「友達が慶の人間だから」 「は?」 自身の一生を左右する事に対してあまりに簡単すぎないか。 鳴賢が目を丸くするのも無理は無い。 「おいら友達の力になってやりてえんだ。猫の手も借りたいほど忙しいって言ってたしな」 「それはそうだろうさ。今の慶なら」 新王がたってまだ十年も経っていない。 しかし、である。 「でもお前、そう簡単に慶の籍が無い人間が官吏になるっていうのは難しくないか?」 慶の大学を出てというのならまだわかる。 「そこは、伝があるから大丈夫、だと思うぞ」 その気になれば陽子の勅命の一言で終了だ。 しかしそんなことを知らない鳴賢は楽俊の言葉では納得出来なかったらしい。 「お前、騙されてないだろうな?」 楽俊は困ったように鬚をそよがせた。 「おいら一人騙して官吏にしたって仕方ないだろ?」 「いや、官吏っていうか……」 鳴賢は口をつぐむ。 そういう甘い言葉で誘っておいて最悪は、という事態を考えているのだろう。 そんな鳴賢をお人好しだなあと楽俊は思う。 そして心配してくれる友人の存在に胸を温かくした。 友人という存在はこれほどに有難い。 「鳴賢」 だから楽俊は小さい手を鳴賢に伸ばし、ぽんぽんと叩いた。 「大丈夫だ」 半獣でわかりにくいが、しっかり笑って太鼓判を押した。 「……ま、お前がそう言うなら。だけどな!」 所属やら何やらが決まったら必ず連絡しろよと約束させた。 広い堂室はむさ苦しい空気に包まれていた。 雰囲気ではなく、あくまで空気である。 体格のいいのから、普通の、そうでないもの。色々あったがこの人数が集まれば無理もない。 禁軍の各部署から集められた五百人が何れも不安そうな面持ちでずらりと並べられた机と椅子に座っている。 これからいったい何が始まるのか彼らは何も聞かされていない。 そこへ澄ました表情の文官が数名はいってきた。 漸く何かが始まるらしいと、普段の訓練の賜物か一斉に中央の一番偉そうな文官へと視線が集まった。 「これより、試験を開始する」 文官の言葉に室内がどよめく。 大半が顔色を悪くした。そういうことを苦手にしている脳筋たちだ。 「これから試験用紙を配ります。速やかに回答をしていただき、終わった方より通常業務にお戻り頂いて構いません」 そこで一旦、官吏は口を閉じて周囲を見渡した。 「申しあげておきますが、この試験は主上の勅命により実施されているものであることを申し上げておきます」 ざめいていた室内がぴたりと静まった。 彼ら武官は文官よりも陽子のことを支持している。何と言っても王自らが剣をとって戦場にあったことは武官にとっては誇らしい。 しかも強い上に美しい。 それはともかく。 勅命と言えば、逆らうことなど出来ない。 ましてやいい加減に回答しおうものなら「わかってるだろうな、お前たち」と念を押したわけだ。 兵士たちは冷や汗を浮かべながら筆を持ち上げるのだった。 |
ん・・・ん?何か話しがずれていってるような・・・ま、いいか。