改 元








 新たなる王が立つ。
 それに伴い様々なことを決めなければならない。その一つ一つに王である陽子の裁可が必要となる。
 字があまり読めない陽子には奏上される書管に何が書かれているのかよくわからない。
 仕方ないので傍に景麒を置いて、読み上げて貰っている。
 面倒を掛けて申し訳無いと、景麒の仏頂面を視界に入れながら読み上げられる文章を聞いていく。
 しかし文章として理解できても、内容は難しい政治用語を使われていてやはりよくわからない。
 陽子はただの女子高生なのだ。いきなり国のトップである王をやれと言われて「はいそうですか」と行く訳が無い。
 わからないことを聞き返せば景麒の溜息が聞こえる。
 それに陽子は身を竦ませた。

「官からの奏上によりますれば、主上が即位するにあたり元号を決めなければなりません。その元号をどうするかについて幾つか案を出してきております」
「ああ、なるほど……」
 それで二文字の熟語が並んでいたのかと陽子は漸く納得した。
 人の名前かとびびっていたのだ。さすがに一度に覚えきるのは厳しい、と。
「それで、如何なさいますか?」
「え……?」
「この中からお選びになるか、もしくは主上に何かお考えがあるのであればそれでも宜しいですが」
「いや……」
 これと言って陽子に案などと言うものは無い。今言われるまで元号とやらがあることさえ知らなかった。
「左様でございますか。元号に特に決まりというものはございませんが、あまり他の王と被るのは不吉とされます。特に直近の王と同じものはやめておいたほうが宜しいでしょう。区切りもわからなくなりますし」
「前は、確か……予青、だったか」
「御意。御名と関わりがある字と色を組み合わせて決まったと記憶しております」
 元号に色を使うことは慶国ではよくあることらしい。
「ああ、なるほど……私だと陽子だから何か難しいな……易?あまりしっくりこないな」
 うーむ、と陽子は筆を置いて顎に手をあて考え始めた。
「色については赤を推しておりますが」
「赤……ああ、私の髪の色か。まあ、そうだな。色で攻めるならそうなるよね」
 他の色なら目の色の緑もあるが、きっと目の色よりも髪の色のほうが印象的なのだろう。
 遠くからでもわかるし。
「赤……赤、か」
 それと組み合わせるのは何の字が良いだろうか。
「これから主上がずっとこの地をお治めになる限り続いていくものです。慎重になられるのは……」
 考え込む陽子を見て、景麒が何かを言っている。


「そうだっ!楽俊だっ!!」


 陽子が立ち上がり拳を握った。
 景麒が口を閉じて眉間の皺を深くした。
「あ。ごめん……でもっ、うん!楽がいい」
 思いついたらそれ以上に良い文字は無いように思われた。
 陽子が王で居る限り、ずっと寄り添い続ける字だ。その字を見る度に、陽子は己を戒め、励まされる。
「楽、赤……いや、赤楽(せきらく)だな」
「……畏まりました。官にはそう申し伝えます」
「うん、頼む」
 楽俊にも手紙を書こう。
 きっと驚き、呆れるだろう。

 ふ、と陽子の口元に微笑が浮かんだ。








赤楽の最初の頃なので、陽子も景麒に遠慮がち。
今となっては・・・信じられない(笑)