▲ くりすますの風景 ▲













 この日が近くなると慶国は郊祀とはまた違った慌しさに包まれる。
 その慌しさを劉來は誰かがまた何かやらかしたのかと……その誰かというのはかなり限定されるが……と他人事のように見ていたのだが。

「は?『くりすます』?何だそれ」
「お前知らないのかよ!常識だろっ!」
 同僚に有りえない、と叫ばれた劉來は首を傾げた。自分は何か重大な行事を忘れていただろうか、と。
「主上が制定された国民の休日だぞ!」
「……何だそれ」
 劉來は今年官吏登用試験を受けて今まで住んでいた奏国から慶国へやって来た。
 やはり国が違えば様々なことが違うわけだが、その中でもよくわからない行事が時折発生する。
 国民の休日など奏国では聞いたことが無かった。
「自分の大切な人と日頃の労を労いながら、楽しく過ごしましょう、という日だ」
 どうだっ!とばかりに同僚が胸を張る。何故。
「さすがうちの主上は違う!我々にそんな素晴らしい日を授けて下さるなんて!」
 拳を握り絞め、感動して涙さえ浮かべている。
「だからな劉來!今日だけは皆残業なしでとっとと家に帰れるんだよ!!!!!!」
 なるほど。
 この同僚はしょっちゅう失敗をしては官府で夜明けの日を見ている。
 今日も何かやらかしたのかもしれない。
「お前もさっさと仕事終わらせて帰れよ!」
「……お前はその前に仕事をしろよ」
 上司が彼の後方で暗黒を背負って睨んでいた。



 そして同僚の言う通り定時でとっとと帰らされ、自分の房室に戻った劉來は迎えに来ていた陽子に問答無用で連れ去れらた。
「劉來は今年が初めてのクリスマスだからな!特別にスター係りをさせてやろうっ!」
「……いや、遠慮しておく」
 何か不吉な予感がした劉來は丁重に辞退しようとした。
「劉來。私に遠慮なんていらないんだ。大丈夫!私は快く劉來に譲るよ!」
「……」
 いやだから譲ってくれなくて良いと言っているのだが……きらきら目を輝かせる陽子に劉來はそれ以上何も言えなかった。弱いのだ。その笑顔に。
 何の裏も無い純粋な好意なのだから。
 例えそれがどんなに常識に外れていたとしたも。
「さ、景麒の準備は出来ているかな」
「ちょっと待て陽子」
「何だ?」
「その台輔の準備は俺とは何の関係も無いよな……?」
「何を言っているんだ」
 そうだろう。よか……
「もちろん関係あるに決まっているだろう!スター係りは景麒と一心同体だ!」
 だからその『すたー係り』とは何なんだ!
 劉來は叫びたいのを必死に我慢した。もう一度言う。劉來は弱いのだ。陽子に。陽子だけにひたすらに。
「いったい俺は……何をするんだ?」
「クリスマスツリーの天辺に星の飾りをつける係りだ。やはりツリーは星で締めなければツリーとは言えん!」
 バーンと陽子が色とりどりの明かりを放っている木を指し示す。
 必死に視界に入れることを拒否していたが、やはりそれが元凶であるらしい。
「さあ劉來!景麒の背中に乗ってあのツリーの天辺にこの星を載せて来い!!」
 劉來は沈黙した。

「っ出来るか馬鹿っ!!」








 その顛末を聞いた雁主従が腹を抱えて笑っていた。
「そりゃそうだよな。どこの国に自分の国の麒麟に騎乗するなんてことが出来るかってな!」
「え、でも六太君は時々私を乗せてくれるだろう?」
「だって陽子の頼みだからな!こんなオヤジを乗せるより陽子乗せてるほうが良いに決まってんじゃん」
「六太君は優しいな」
 そこは優しいとかではなく、ただ単に六太の好みだろう。
「くっくく……今年も変わらないなお前は」
「延王もお変わりなく何よりです」
 二人、酒盃を傾け乾杯する。

 その周囲にはいつもの慶国のメンバーが囲い、それぞれに『くりすます』を楽しんでいた。
 その光景が陽子にとっては何よりのプレゼントだった。











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クリスマスは平和に過ごしましたとさ。