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| ■ 第五話 ■ |
風漢に促されるまま連れて来られた部屋で、陽子は誰かに引き合わされた。 「今日からこれの世話を頼む」 そんな説明も何も吹っ飛ばした風漢の依頼に相手は笑顔だった。 「私は朱衡と言います。貴方は？」 さっさと姿を消し、途方に暮れる陽子に相手は動じることなく礼儀正しく対応してくれた。 「陽、と言います」 「あの方は何と言って貴方を連れて来たのですか？」 「・・住み込みで働ける場所があると。人手不足だから丁度良いと言われたんだが」 「なるほど。それでここが”何処”だからはわかっていますか？」 「・・さっきも聞かれたんだが、雁国では無いのか？」 朱衡が鎮痛な面持ちで額を押さえた。陽子の不安が大きくなる。 本当にココはいったい”何処”なんだ？ 「まあ良いでしょう。何が出来ますか？」 適当に流されたが本当に良いのか・・・。 「出来ることは・・力仕事ぐらいなんだが」 「力仕事、ですか」 どう見ても陽子が力仕事が出来るとは見えなかったのだろう。 この反応にもすでに慣れた陽子は論より証拠とばかりに、部屋を見渡し石造りの重そうなテーブルに近づく。 何をするのかと見ている朱衡の前で陽子はそれを苦も無く持ち上げた。 「・・・わかりました。貴方が力持ちだということは・・・文字は読めますか？」 「難解なもので無ければ・・」 一般的な読み書きは学生をやっていたので問題無い。 「わかりました。それでは大量の書類が運びこまれますから、それを私が処理しますので指示されば場所に運んでいただけますか？」 「わかった。・・・だが場所がよくわからないんだが」 「運んでいただく場所への地図を書きますのでそれを見て行ってください。ここまでで質問は？」 「仕事に関しては無い、です」 思っていたより随分と楽そうな仕事だと思った。 「後は住むところですね。・・・この部屋の隣が空き部屋になっているのでそこを使って下さい。食事は食堂を案内しますのでそこでとって下さい」 食事の時間と食堂の場所を教えられる。 「それでは早速ですが仕事をしましょう。・・・溜まっているでしょうから」 そう言った朱衡は陽子に使えと言った反対側の扉を開く。 そこには・・・・ 部屋を埋めんばかりの紙があった。 「・・・それであいつ誰なんだよ」 定位置に収まった風漢の前には盛大に罵った六太ともう一人が立っていた。 「また厄介ごとを持ち込んだのか！？」 目を剥いて激昂し始める。 「まあ待て、帷湍。思わぬ拾いものかも知れぬだろう？」 「お前が拾ってくるのは厄介ごと以外の何物でも無い！さあさっさと吐け！お前がそんな顔をしている時は碌でもない無いんだ！」 「さすがに付き合いが長いと見るとこ違うなあ」 思わずと言った風に漏らした六太を帷湍がにらみつけると、慌てて口を閉じる。 「貴様も一人で出歩くなと常々言っているだろうが！」 「・・・ここぐらい一人で歩いてもいいだろ。別に街に出たわけでも無いんだし」 薮蛇だったと肩をすくめる。 「そうそう。六太は俺がおらず寂しかったのだろう」 「っ誰がっ！お前なんか居ないほうがせいせいするっ！！」 「はっはっ、照れずともわかっている」 「誰が照れてるかぁっ！！」 「・・・・貴様ら・・・・・・・いい加減にしろっ！！！」 帷湍の雷が落ち、風漢は笑みを浮かべたまま、六太はとりあえず掴みかかっていた腕を下ろした。 「・・・それで、お前は何を拾ってきたんだ・・・？」 低い低い地を這うような声で問われ、風漢はにこやかに告げた。 「景王だ」 |