■ 第二十六話 ■ |
歩いていたはずの陽子の歩みはどんどん速くなり、ついには駆け出した。 逃げ出すように必死に駆ける。 その腕が、がっと掴まれた。 「……っ!」 「そんなに急いで何処へ行く?」 「……風漢」 延王が笑っている。 「何処へ、と……別に」 陽子に行く宛てなど無い。 「それなら良い場所がある。ついて来い」 「ちょ……っ」 強引に陽子の手を引いて何処かへ連れて行く。 「何ですかっいったい何処へ……っ!」 「いいから付いて来い」 問答無用とはこのことだろう。 「俺の気に入りの場所だ。お前に教えてやろう」 延王はご機嫌で街の外へと歩いていく。 「はあ……」 どうせ休みで何もすることが無い陽子だ。特に断ることも無い。 延王に引きずられるまま陽子は歩く。 「ああ、そこの串焼きは旨い。買って行くか」 「え……はあ」 「親父、二本くれ」 「あいよっ!」 香ばしい匂いの串焼きを二本受け取り、一本を陽子へ渡してくる。 「いただきます……」 延王はすでに口に放り込んでいる。 陽子も口へ運ぶ。 「どうだ、旨いだろ?」 「……んぐ、そうですね」 少しピリ辛なタレが口の中を刺激し、一口噛むとじゅっと肉の脂が滲み出す。 美味しい。 「そうだろう」 延王は楽しそうだった。いや、延王はいつだって、どんな時も楽しそうだ。 「……貴方は、落ち込むことってありますか?」 だから陽子は聞いてみたくなった。 「あるぞ」 延王はあっさりと肯定した。 「全く、そんな風に見えません」 正直な感想に延王は苦笑した。 「貴方はいつだって自信一杯で、それだけの能力もある」 「おお、褒めろ褒めろ」 「……」 そして陽子よりも遥か先を歩いている人。陽子の悩みなど笑えるものでしかないはずだ。 それなのに律儀に付き合っている。 「この建物の上に入るぞ」 「……廃墟に見えますが」 「おう、廃墟だ。しかし心配するな。崩れぬように管理はしている」 陽子が呆然とその建物を見上げる。彼女ならずとも、今にも崩れ落ちそうな建物を見て管理されているとはとても思えないだろう。 「足元に気をつけろ。瓦礫が散乱しているからな」 「……」 管理しているのに瓦礫が散乱しているのか。 「奥に階段がある。そこから上に昇るぞ」 「はあ……」 瓦礫を避けながら延王に導かれるままに歩き、そして階段を昇る。 こんな廃墟の階段だ。昇る途中で崩れることも覚悟したが、びくともせずに二人の体重を支えている。 「さてと」 そして5,6階は昇ったところで延王は立ち止まって陽子を振り返った。 「お手をどうぞ」 「……」 おどけるように手を差し出した延王に、陽子は小さく溜息をついて手を差し出した。 その手が強く引かれ、引っ張り上げられる。その力は強く、陽子は一瞬浮くような感覚を得る。 「見てみろ」 目の前の扉が開く。 その扉の向こうにあったのは・・・・・・ 関弓の街並みだった。 |