■ 第二十四話 ■ |
景麒は陽子の手を引いて迷うことなく歩いていく。 そろそろ陽子は振り切って逃げてやろうかと考えていたところに、これまた見知った顔が飛び出した。 「……桓魋」 「どうも」 顔を出した大柄な男は慶国国軍の将軍を務める男だった。 軍事国家で最高司令官は国王なので、実質的なトップと言っていい。 「将軍、主上を」 どうやら景麒から桓魋へと陽子の身柄がバトンタッチされるらしい。 確かに景麒よりも陽子が逃げ切る確立は格段に下がる。 だがその一瞬、景麒の手が離れたのを陽子は逃さなかった。 「っ主上!」 二人から僅かに距離を空けて向かい合う。 「私はっ……事情を話すというからついて来たんだ。慶に帰るつもりはない!」 「またそのような我侭を……」 「っうるさいっ!」 陽子は叫んでいた。 「ずっと……ずっとそう言ってお前は私の話なんて聞こうともしなかった!私は何で戻らなければならないっ?!私なんて居なくても国は困らないっ!私が居る意味なんて何も無いっ!」 心の中で思っていたことを陽子は吐き出した。 存在を認められないことは、こんなに苦しい。 「王って何だ!?……私はそんなものになりたいなんて一言も言った覚えはないっ!!」 心からの叫び、陽子の思い。 それを景麒は目を見開いて聞いていた。 「その、ような……」 顔を蒼白にした景麒が、一歩後ろにたたらを踏む。 桓魋も困ったように二人を交互に見て、頭を振る。 そこへ、パンッパンッパンッと手を叩く音が響いた。 三人ははっとして振り向く。 桓魋は気配に敏いはずの自分にさえ気づかれずに近づいた何者かに景麒を庇って前に出た。 「風、漢……」 飄々と男は面白そうに立っていた。 どうやら陽子の知り合いであるらしい相手に胡散臭そうな表情をしながらも、桓魋は僅かに警戒を解く。 しかし、いつでも抜けるように剣に手を掛けている。 「陽……いや、陽子」 風漢は一歩陽子に歩み寄る。 「俺はお前に無理強いなどせん。この国は過ごしやすくは無かったか?」 「……それは、はい」 「ならば、ずっと居ればいい」 息を呑んだのは誰だったのか。 風漢は……延王は陽子に向かって手を伸ばした。 「――― この国に、ずっと」 |