■ 第二十三話 ■ |
陽子は関弓の街にやって来ていた。 「貴女には休みを取っていただきます」 昨日、朱衡に突然そう告げられた。 「は?」 「福利厚生です」 「はぁ……」 陽子にはよくわからなかったが、上司命令とあらば拒否権は無い。 ただ他の誰かがその場に居たなら泣いて朱衡に陳情したことだろう……自分たちにはそんなものは無い、と。 そんな訳で陽子は関弓に居た。 何故関弓かと言えば、部屋で一日過ごそうとした陽子は追い出されたからだ。 休みなのだから好きに過ごさせて欲しいと思ったが駄目だと言う。 どうしろと言うのだと途方に暮れた陽子が出来たのは、とりあえず知った場所に来るぐらいだった。 「とりあえず……楽俊のところに行ってみよう」 関弓の知り合いなど楽俊しか居ない。 交友関係の狭さに陽子は苦笑する。 昔からそうだった。人の顔色ばかり見て、自分の保身ばかり考えていた。 「……でも楽俊も忙しいだろうしな」 楽俊は陽子と違っていつも忙しそうだ。 そして……何故か、関弓で会うはずのないものと出会った。 「……主上」 陽子が目を見開き、動きを止めた。 その呼び方をする相手は限られている。そして……誰よりもこんな所に居ることは無い相手だった。 「……景麒」 「私のことは覚えておいでか」 記憶にあるままのしかめっ面で景麒は憎らしいことを言う。 「いや忘れるわけ無いだろ。どんな健忘症だと思っているんだ」 つい売り言葉に買い言葉で陽子は返してしまった。 最早条件反射に近い。 久しぶりに顔を合わせたというのにこんな会話をしてしまうのは余程相性が悪いのか。 「何故、こんなところに……」 「……何故?主上をお探し申し上げたまで」 「探す?……私なんて探してどうするんだ」 陽子の言葉に景麒の柳眉が跳ね上がる。 「慶国にお戻りいただきます」 「……戻るつもりは無い。私など放っておいて新しい主を探せばいいだろう。もっと優秀な、な」 「馬鹿なことを……」 景麒の呟きに今度は陽子の眉間に皺が寄った。 「馬鹿とは何だ!だから今まで私を放っておいたんだろうに……」 探したと言うが、景麒が本当にその気になったのなら権力でも何でも使ってもっと早く陽子を見つけることが可能だったに違いない。それが今の今まで放置していたことが景麒の答えでは無いのか。 だんだんと激高してくる陽子に景麒は周囲を見渡すと、陽子の腕をとった。 「な……っはなっ」 「人が見ています。移動いたしましょう」 「っ誰のせいだと……っ」 しかし注目を集めていることは確かだった。 景麒の腕を振り払おうと力をこめるが、景麒も是が非でも放すつもりは無い。 不承不承にも陽子は景麒に引きずられて行くのだった。 |