■ 第二十二話 ■ |
それから特に陽子の身の上に何か変化が起きた訳では無い。 また同じように朱衡の部下としてこき使われている。 すっかり宮殿の地図も頭に入って、書類運びも何処を通れば最短距離で行けるかわかるようになった。 「気にならない、と言えば嘘になる……」 陽子が延王に告げた結果、何がどうなったのか。 しかし雁国の民でも何でも無い陽子が知る必要の無いものでもある。 だから延王も何も言って来ないのだろう。 陽子が感じているのは疎外感だろう。 「陽子っ!」 廊下の曲がり角で飛び出してきたのは六太だった。 「っと……六太君」 書類の山を取り落としそうになり、慌ててバランスを取る。 「おー相変わらず凄ぇ山」 「うん、そうなんだ。……どうかしたのか?」 「あのさ……あのな」 いつも歯切れのいい六太にしては珍しく何か言いがたい様子だ。 両手を後ろでにもじもじしている姿は朱衡たちが見れば気味悪がっただろう。 「陽子はさ……おっさんのことどう思う?」 「……おっさん?」 誰だ? 心当たりの無い陽子は首を傾げた。 「あー、と尚隆」 「ああ……」 まあ実年齢はともかく六太が延王を『おっさん』と呼ぶのは変では無い。 「で、尚隆のことどう思う?」 「どう……」 いきなりな質問に陽子は戸惑う様子を見せる。 いったい何に対して『どう』なのか。六太が何を聞きたいのかよくわからないのだ。 「質問の意図がよくわからないが……私の印象というのなら、周りを振り回す人、かな」 「あー……まあ、間違いじゃねえよな」 六太が幾度も頷いている。 「それから、不思議な人、かな」 「不思議?」 陽子の言葉に今度は六太が首を傾げた。 「そう。私なんかに何故構うのか……不思議だ」 「えー……別に陽子に構うのは不思議でも何でも無いだろ?」 「何故?」 「それは……っ」 「それは?」 陽子は六太を見下ろしたまま、その言葉を待った。 しかし六太はぱくぱくと口は動かすものの、音にならない。 「いや、まあ……ほら、朱衡を手伝ってもらってすっげー助かってるし!」 「……別に私では無くても出来ると思うんだが」 陽子がしていることは、ただ朱衡が処理した書類を各部署に運んでいるだけだ。 「そんなことねぇって!陽子が朱衡の傍に居てくれてホント助かってるからな!」 「そうなのか?」 「そうなんだって!……お陰でこっちへの風当たりも少なくてすむし」 後半はぼそぼそと付け加えられて陽子には聞き取れなかった。 「ごめん、六太君。これを持っていかないといけないから」 「あ、うん!呼び止めて悪かったな」 「大丈夫。ではまた」 安心させるように微笑んだ陽子の去ってく後ろ姿を六太は呆然と見送った。 「……あいつの好み、ドンピシャ?」 |