■ 第十七話 ■ |
「ところで。何ゆえ景王が雁国にいらっしゃるのかのう?お世辞にも二国は仲が良いとは言えなかったと記憶しておるが?」 先ほどまでふざけていた雰囲気を消し去って、意味深な微笑と共に確信をついてくる。 「それは……」 「たまたま陽、……子がおっさんと知り合いだっただけだっつーの!」 「……なるほど」 それだけの台詞で何を悟ったのか、氾王の笑みがますます深くなる。 「相変わらず猿王の名の通りうろうろとしておるようじゃ」 陽子はどう反応して良いかわからず、助けを求めるように六太を見た。 二人の言葉や六太の反応を見ればお世辞にも『仲が良い』とは思えない様子だが、もしそうなら王と麒麟が雁国を訪れるだろうか。 陽子なら敵対している国に自ら出向こうとは思わない。ましてや麒麟を連れて。 「景王はほんに、初々しい」 「は……はぁ」 褒められているのだろうか。貶されているのだろうか。もしや何か機嫌を損ねるようなことをしてしまったのだろうか。 「あの、申し訳ありません」 「ん、何を謝られる?」 「私は……無知なので、楽しませる会話というのが苦手です。礼儀も知りません。ご不快な思いをさせていたら申し訳ない」 座を白けさせるような陽子の言葉だったが、氾王は扇で口元を隠し……くつくつと何故か笑い出した。 呆気にとられる陽子の前で暫く笑い続け、涙まで拭っている。幾らなんでも笑いすぎだ。 「ああ、本当に……」 漸く笑いをおさめた氾王が手招くので、身を乗り出した。 すると…… 「っ……!?」 すっと腕をとられたと思うと、体が浮き上がり……気づけば氾王の膝の上に居た。 いったい……何が起こっているのだろうか。 予想外の事態に身を固くした陽子を膝の腕で抱き、とんとんとその背中を宥めるように叩いてくる。 「おいっ!」 一拍遅れて焦ったように六太も立ち上がった。 「素直で良い子だ、陽子は。何も焦ることは無い。知らぬことは知っていけば良いだけのこと。ねえ梨雪」 「そうよっ!本当にっ陽子ったら可愛いっ!!」 きゃ〜と氾麟までが陽子に抱きついてくる。 (…………何だろう………このカオス………) 救いを求めるように六太を見れば、顔を引き攣らせて絶句していた。 どうやら助けにはなりそうに無い。自分で何とかしなければ、と陽子は決意した。 「あの……重いので、下ろして下さい」 「寧ろ陽子はもう少し太ったほうが良い。これでは子供と変わらぬよ」 確かに扱いは『子供』だ。 「全く。陽子はお前らの玩具では無い」 再びの突然の浮遊感と声と共に、陽子は氾王の腕から離れ……別の男の腕に抱かれていた。 一瞬誰かわからなかった。 「……延王?」 王様らしい盛装した延王だった。 |