■ 第十二話 ■ |
朝食を終えた陽子は六太と共に庭園の中庭に居た。 その中庭に蔦薔薇の這う瀟洒な東屋があり、二人はそこに用意されていた椅子にそれぞれ座っている。 陽子は華奢な造りの椅子にどうにも居心地悪げだった。 「まずは言っておく」 「はい」 きりっと背筋を正した六太に陽子も背筋を伸ばす。 教えてもらう以上、姿勢は大事だ。 「楽にしようぜ」 一気にだらけた。 「煩く言う奴も来ねーし、陽もそのほうがいいだろ?」 な、な、と同意を得るように見上げられて苦笑と共に頷いた。 「はー良かった。陽が景麒みたいに堅苦しい奴じゃなくって」 「まあ……私は礼儀知らずだから」 そんなもの、と六太は鼻を鳴らす。 「心が伴って無いものにどんな価値がある?」 その言葉に目の前の子供がただの子供では無いことを改めて思い知る。 「こんなところに居ると口と形ばかり飾った奴らには嫌ってほどに会う。俺に媚売ったってしょうがねーってのに」 口を尖らせる。 「麒麟なんてただの道具だ」 六太は陽子から視線を逸らしたまま淡々と続ける。 「王を選べば後は用なし。何も出来ないで生きてるだけ。そして王が倒れたらまた新しい王を探し出す。延々とそれを繰り返して生き続けるだけの……」 ただの道具だよ、と言う六太の目にはどんな感情も浮かんでいなかった。 「……羨ましいな」 「……え?」 ぽかんとした表情で六太は陽子を見る。予想外の言葉だったのだろう。 六太にとってはそれは我慢ならないことなのかもしれないが、陽子には違った。 「道具は道具でもちゃんと使い道があるってわかる。私なんて何故ここに居るのか、何をやれば良いのか全くわからない。王って何?道具より役に立つもの?」 六太の口がぱっかりと開いた。目がぱちぱちと瞬く。 そして…… 「っ……あっはっはっははっ!」 腹を抱えて笑い出した。 「陽って、陽って……おっもしれーぇ奴っ!」 「……」 納得しかねる顔で陽子は六太の笑いが収まるのを黙って待った。 「わりっ…ははっ……ま、王様が道具より役に立つのかってことだよな。そうだなー役に立つこともあれば害にしからないこともあるな。道具に例えるなら王は諸刃の剣だからさ」 「諸刃の?そんな危険すぎるものを王にしているのか?」 「そう思うよなー。俺も尚隆なんて選んじまった時にはそこいつは無いだろーって文句言いたくなったもん」 「それでも。選ぶんだ」 「それが麒麟の唯一の仕事だからな」 仕方ないと肩を竦める。 「選んだ後は?」 「んーまあ……王様任せ?」 「それは……随分と無責任だな」 「麒麟の役目は王を選ぶところまで。それ以上のことは知ったことじゃない」 それは麒麟として本心でもあり、六太としては思うところもあるのだろう。 本当にそれで責任を果たしたと思っているのならば、こうして陽子に時間を割く必要は無いのだから。 「それでは王様の仕事は?」 「生きること。民を苦しめないこと」 「生きる、こと……」 民を苦しめないというのは理解できるが「生きること」というのがよくわからない。 そんな陽子に六太は溜息をつき頭を掻いた。何で俺が……と呟いている。 「こういうのって景麒の仕事なんだけどな。陽ってさ尚隆が何歳か知ってるか?」 「延王が?……若く見えるけど三十は超えているのかな」 「はは……それだと500歳くらいサバ読んでることになるな」 「500?何を……」 聞き間違いかと目を細める陽子に六太は首を振る。 「麒麟に選ばれると王になる。王になると……」 |