今日は幼稚園がお休みのぴかぴかの日曜日。
 鳴上家、門前には3人の子供が買い物籠を手に持って横一列に並んでいた。
 
 一番左にはそっぽを向いてふくれた子供・・・藤原一成(4才)。
 真中には、にこにことこれからのちょっとした冒険に胸をはずませる佐伯涼(4才)。
 一番右には、その涼を微笑ましく見つめる、渡辺忍(5才)。

 「いいか、この紙に書いてあるものを間違えずに買ってくるんだぞ!」
 3人の日ごろの世話をしている碓井勇治が一人一人に一枚の紙を渡していく。
 「一成、三田に言って代わりに買って来させるなよ、いいな」
 「・・・・・・・・・」
 黙っているところを見ると図星だったらしい。
 「いいな?
 「・・・・・・わかった」
 しぶしぶ肯く。
 「忍、お前は自分の買い物が済んだからといって涼を手伝ったりするなよ。自分でさせ
 るんだぞ!!」
 「ええ、わかっていますよ」
 一見、聞き分けの良さそうに返事をかえすが、こいつが一番の曲者である。
 「涼は・・・・・・・・・『買い物』をすることを忘れないようにな」
 「おうっ!!」
 素直で良い返事なのだが本当にわかっているかは謎なところが悲しい。
 「まぁ、とにかく気をつけて行ってこい」
 「「「は〜いっ!!!」」」
 はぁ・・・何で俺がこいつらの面倒を・・・などとぶつぶつ言いながら面倒見のいい碓井
 勇治28才であった。





 「涼、あなたは何を買えと言われたんですか?」
 とても5歳児とは思われないしゃべり方で忍が涼に話し掛けた。
 「ん?え〜と・・・これ」
 涼は忍に尋ねられてたった今渡された紙片を見せた。
 「なになに・・・・にんじん、じゃがいも、フライパン?何でフライパンなんかいるんでしょう
  かね・・・・鳴上の台所には揃ってるはずですが・・・」
 「ああ・・・昨日俺が、野球のバットの代わりにしてぼこぼこにしちまったんだ」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なるほど」
 明るく答える涼に深く肯く忍。
 「・・・で一成くんは何を買ってくるように言われたんですか?」
 「・・・・・・・お前には関係ない」
 「何かっこつけてんだよ、一成!ちょっと見せてみろって」
 「あ、おいっ!」
 「どれどれ?・・・・玉ねぎ、ピーマン、包丁?・・・またなんで包丁?俺みたいに壊した
 のか?」
 「違うっ!!」
 涼の言葉に必死で否定する一成。
 そうだろう、こんなおさると一緒にされては困る。
 「ちょっと工作に使っただけだ!!」
 ・・・・・・・・・・・・それは五十歩百歩だよ、一成君・・・・・・・
 「そういう忍こそ何なんだよっ!!」
 「私ですか、私は・・・・・・牛肉ブロック300グラム、マッシュルーム、小麦粉、
  というところですね」
 「「「・・・・・・今夜はカレーだな」」」
 3人のセリフが見事に一致した。
 「でもなぁ・・・ここでどうやってフライパンや包丁なんか買うんだ?」
 3人の子供は周囲を見渡す。

 山、山、山、川、山・・・・・・・・・・・

 はっきり言うと山奥
 店の一つもありはしない。
 
 「無理だな・・・」
 「無理ですね・・・」
 一成と忍が肩をがくりと落とす。
 「何言ってんだよっ!!そんなの探してみないとわからないだろっ!!」
 涼君・・・山の中にどうやったらフライパンや包丁があるんだい?
 だが、この佐伯涼、未だ4才ながら不思議に人をその気にさせる力を持っている。
 「そうですね」
 「そうだな」
 諦めの吐息をついた二人が復活した。
 ・・・・・・・・・・・ああ、金がかからず体力回復、何て経済的。
 そして、とにかく3人は己の買い(?)物を求めて山に分け入ったのだった。



 とことこ・・・
   ・・・・とことこ
 とことこ
   ・・・・とことこ

 「何だよ、忍?」
 涼の後ろをぴたりとついて離れない忍にさすがに涼が振り返った。
 「いえ、あなたのお買い物をお手伝いしようと思いまして」
 「勇治に言われただろ、手伝うなって」
 「ええ、『済ませたからといって手伝うな』とは言われましたけど済ませないうちに手伝う
 なとは言われていませんから」
 ・・・・・それは屁理屈というものだよ、忍くん。
 だが、ここにそれを突っ込む人間は居なかった。
 「ふ〜ん、じゃあ俺のが済んだら忍の手伝ってやるな!」
 「ええ、お願いします」
 満面の笑みを浮かべる忍。
 しかし、心中では『こんなことごときにあなたの手をわずらわせるまでもありません』と
 呟いていた。
 齢、5歳にしてすでに涼至上主義の渡辺忍だった。
 
 さて、2人はまず山の中の鳴上家の畑を見つけ出した。
 「にんじんあるかな〜?」
 「にんじんもじゃがいももありますよ。ほら、この上に出てる葉、にんじんのですよ」
 「え、本当か?!」
 忍の言葉に涼がさっそくそれを掘り起こす。
 「ん〜しょっ、よいっ・・しょっ・・・・・とうわっ!」 
 ズボッと抜けた。
 「ああ、丁度とれごろですね〜」
 泥にまみれているものの、オレンジ色の長いそれは紛うことなき人参だった。
 「次はじゃがいもだなっ!!」
 畑の中に尻餅をつきながらも涼が楽しそうに言う。
 「はい」
 そんな涼を見る忍も幸せそうであった。
 「あっ!!一成!!」
 向こうより現れた一成を見つけるまでは。

 「・・・・どうして君がここに居るんです?」
 「お前こそこんなところで何をやっている?手伝うなといわれていただろうが」
 「君こそ、その籠に入っている包丁はなんだい?まさかこの山の中で見つけたなどと
 いう馬鹿なことは言わないだろうね?」

 ビシビシィィィッッッ!!!!

 一成と忍の間に青い稲妻が走った。
 「一成っ!忍っ!!ほら、見つけたぞ、フライパンっ!!」
 涼の小さな手には確かにフライパンがあった。
 「「・・・・・・・・・・」」
 しかも何か泥がついているのはなぜ・・・・・・・?
 「・・・・・・涼、それは・・・・?」
 「野菜と一緒に埋まってた!!」
 ・・・・・・・いや、埋まってた・・・て・・・・・・・なぜ、畑にそんなものが・・・・・・・
 ちょっと額に汗する一成と忍に対して涼は無邪気に喜んでいる。
 「これで俺の買い物は終ったな!!」
 ・・・・・・・・・それでいいのか?
 「一成も、玉ねぎとピーマンここにあるんじゃねーか?」
 「あ、ああ・・・・」
 無表情でちょっと動揺中の藤原一成、4才。
 まだまだ修行が足りない(笑)
 「忍のは・・・・・・・無理そうだなぁ〜」
 マッシュルームは野菜なのだろうが、ここにあるとは思えない。
 小麦粉も・・・・・・ないだろう・
 ましてや、牛肉など・・・・・・。
 やはり、1才といえど2人より年上なぶん宿題も難しいのだ!!
 「大丈夫ですよ。心配いりません」
 頼もしく涼に笑ってこたえる。
 そして、自分の漆黒の髪の毛より・・・・・・・・ワイヤーソーを引っ張りだした。
 「実はこの近くの山に野良牛がいるんです。それをちょっと刻んできます」
 おいおいおいおいおい!!!!
 「そうか?んじゃ、待ってるな」
 こら、納得するな!!
 
 かくして忍は野良牛退治?にでかけた。


 

 カァカァカァ・・・・・・・
 「忍まだかなぁ〜」
 「だから、帰ろうとさっきから言っているだろうが」
 空は茜色、夕日が地平線に沈もうとしていた。
 「だって、待ってるって言ったんだもん」
 「・・・・・・・・・」
 途端にむすっとなる一成。
 まだまだお子さまなのだ。
 「一成は帰ってもいいぜ」
 冗談ではない。
 みすみす忍と涼を2人きりになどさせない。
 そんな<狩人VS獲物>・・・な状況になど・・・・・!!!
 「いや、待つ」
 「・・・・・・何怒ってんだ?」
 このにぶにぶおさるがっ!!!!
 一成の額はひくひくしていた。

 そんなやりとりが5回目にさしかかろうとしたとき、忍が髪をなびかせ走ってくる姿が
 2人の目に映ったのだった。
 「涼、すみませんお待たせして。さぁ、遅くならないうちに帰りましょう」
 「・・・・・・遅くなったのはお前のせいだろうが・・・」
 「何か言ったかい、一成くん?」
 「・・・・・・・別に」
 「それで、野良牛は見つかったのか?」
 「ええ、無事に。ほら、この通りロースの部分を300グラムばかりいただきました」
 そして、草で包んだそれを示してみせる。
 「良かったなぁー!」
 「・・・・・・・・・・・ていうかその牛はどうなったんだ?」
 「さぁ、帰りましょう」
 「そうだな!!」
 一成の素直な問いは無視された。
 
 「・・・・・・・・・・もういい」
 今回のおつかいで人生には諦めが肝心ということを学んだ一成だった。
 





 「「「ただいま帰りましたーーっ!!!」」」
 鳴上家、門前に3人の子供の声が響いた。
 「おう、やっと帰ってきたか。どこまで行ったのかと思っていたぜ」
 そう言う勇治の顔は朝よりも確実に日焼けしていた。
 ・・・・・・・どうらや一日中外で子供たちを待っていたらしい。
 「ほら、買い物みせてみろ」
 勇治の言葉にそれぞれ籠を差し出す。
 「一成は・・・玉ねぎ、ピーマン・・・あるな・・・それから包丁・・・・・ん?」
 勇治は包丁の柄のところに貼ってあるマークを見つめる。
 「大○デパート・・・て・・・・こらっ!一成!!あれほど三田に言って買わせるんじゃ
 ねーて言っただろうがっ!!」
 「・・・・俺が言ったわけじゃない。三田が勝手に買ってきたんだ」
 「うるさいっ、今日のメシ抜きだ!!・・・で涼は・・・人参、ジャガイモ・・・・フライパン・・
 ちゃんと揃ってるが・・・・忍に手伝ってもらったんじゃないだろうな?」
 「うん、手伝ってもらった!!」
 ああ・・・涼、君はなんて単細胞なんだ・・・・・・。
 「お前もメシ抜きだっ!!」
 「では、私も夕飯はいりません。涼が食べないのに私が食べるわけにはいきません
 からね」
 「言うまでもなく、忍お前もメシ抜きだっ!!まったくどいつもこいつも買い物くらいまとも
 に出来ないのかっ!!本当にお前らは・・・・」
 勇治はがくぅと肩を落とした。
 まったく反省の色のない3人を前にして急激に怒りが萎えたらしい。
 「・・・・もういい。部屋に戻ってろ」
 反省はしない子供たちだがさすがにここで逆らうとタダではすまないと思ったのか
 大人しく部屋に戻ったのだった。
 

 「メシ抜きだってな、どうする?」
 「・・・・・どうするも何も食べなければいいだろう」
 「でも、俺おなか空いたーっ!!」
 「それでは、私が調理場に言って何か作ってもらいましょう」
 「本当っ!?」
 今日一日、歩き回っていた涼はもう腹と背中がくっついてしまいそうだったのだ。
 

 



 「しかし、今日は大変だったな」
 「ほんに。涼さまたちにばれぬようフライパンを畑に埋めるのは苦労したぞ」
 「それならば私とて、野良牛を追って忍様に見つけやすくせるのには骨をおれ申しまし
 たわ・・・・はぁ疲れた、疲れた」
 「だいたい、買い物なぞに行かれる必要があったのか?」
 「いや、それが勇治様が獅子は子を谷に落とすという諺もあることだし、と仰られてな」
 「じゃが、ご自分が一番はらはらしておられたようじゃぞ。何しろずっとお子様がたの後
 をつけていらしたようじゃからな」
 「まったく」
 「おのおのがた、今日はお疲れでしたな」
 「今日はゆっくりいたしましょう」
 「そうしましょう」
 大人たちは猪口を傾けたのだった。

 


  ★おわり★



vあとがきv

どうも、すみません!!なんだかわけわかんないですね・・・(T_T)
 しかも全然子供らしくないし、こいつら・・・・。
笑っていただけると幸いです・・・。
では!!!!!



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