「リナさん。お願いがあるんです」
「……」
「僕の一生のお願いです」
「……」
「お願いを聞いてくれるなら獣王様から頂いたマジックアイテムも差し上げますっ」
「……」
「今なら何でもリナさんのお願いを一つ聞いてあげます」
「……」
「どうか、どうか僕と一緒に……」
「世界を滅ぼしましょうっ!!」
バシーンっ!!
「アホかっ!!」
ゼロスの頭に何処からか現れたハリセンが炸裂した。
その衝撃はゼロスが床でピクピクしているのを見れば明らかだろう。
手加減という言葉はリナの辞書には無いのだ。
「いきなり夜中にやって来て何言い出すかと思ったら」
そう。時は深夜。
リナはベッドの中。すやすやと趣味の盗賊狩りもせずに安らかにお眠りだった。
そこへ唐突にやって来て揺り起こし、冒頭の台詞である。
よく竜破斬を放たなかった。偉い。大人になった!
「世界滅ぼす前にあんたを滅ぼすわよっ!」
全然大人じゃなかった。
リナはげしげしとゼロスの後頭部に蹴りを入れる。
「酷いです~」
「酷いのはあんたでしょっ!夜は乙女の肌にとって重要な時間なのよっ!わかったら寝惚けたこと言ってないでさっさと消えろ!」
あ、でもと付け加える。
「獣王のマジックアイテムって何?」
「……リナさんが酷い、わかってますけど」
「あ?」
ドスの効いた低い声である。
「獣王様が下さったマジックアイテムはっいつでも何処でもリナさんが映る鏡ですっ!」
「……なにそれ」
リナの目が据わる。
「いつでも僕がリナさんが見られるようにっと獣王様がお気遣いくださったんですっ!これをお渡しするのは非常にっ惜しいのですがっ」
「それ、どこにあるの?」
リナの目が鋭い光を帯びる。
「いつでも見られるように持ってますよ!見ますか?」
ゼロスが空間から大きめの手鏡を取り出す。
「竜破斬」
「ああっ!」
リナはその鏡を容赦なく攻撃した。
「何てことをっ!!」
「……もう寝るから。とっとと出てけっこのストーカー魔族がっ!!」
「そう言うと思って何ともういちま……」
「竜破斬っ竜破斬っ竜破斬!!」
そろそろ空が白みかけていた。