「リナさんっ!リナさんっっっ!!!!」
人の名前を連呼しつつ、突然姿を現したのは毎度御馴染みおかっぱ魔族のゼロスだった。
鬼気迫る様子で・・・半泣きになりつつ・・・魔族にそんな表情があるのかとびっくり・・・ゼロスはリナの足元にすがって『聞いて下さいっ!酷いんですっっ!!』と訴える。
「後でね」
そう。今のあたしは忙しい。ゼロスの話なんて聞いている暇は無い。
「嫌ですっ!今聞いて下さいっ!!」
「い・や。あたしは忙しいのっ!!」
「忙しいって・・・・宝を漁ってるだけじゃありませんかっ!!」
「何言ってんのよっ!このガラクタの山から真に宝となるものだけを見つけ出し、晴れてお天道様の下へと導くというあたしの崇高な使命を”たかが”!?」
じろり、と睨み、あたしはゼロスに一蹴りいれた。
「あう~っ!」
しぶとくも、あたしのマントの裾を掴んだままで転がる。……そして起き上がる。
また蹴る。
転ぶ。
起き上がる。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「あんたはダルマかっ!!」
「リナさんが話しを聞いてくださるまで離しませんっ!!」
「……。……わかったわよ」
あたしは肩を落としたのだった。
・・・・・久々の盗賊いぢめの最中だったのに……後でおぼえてなさいっ!
「……で?」
あたしはゼロスに話を促す。
「実は……獣王様がお休みを下さらないんですっ!!!!」
「……。……」
きっと今、あたしの目は据わりきっていることだろう。
「ここ千年というもの、考えてみるとお休みを一度もいただいていないんです!」
・・・千年も過ぎる前に気づかなかったのだろうか・・・・こいつは?
「それで、労働基準法違反だと獣王様にお休みを下さるように訴えたところ」
「え!?あんた、そんなことやったの!?しがない中間管理職。永遠の腰巾着だと思っていたあんたが直談判するなんて……ちょっと見直したわ」
魔族って、上には絶対服従なものだと思ってたけど・・・ふーん。
「・・・・・何だか、喜んでいいのか、悲しんでいいのか複雑ですが・・・・ありがとうございます。それで、ですね訴えた僕に、獣王様はこう切り出されたんです」
以下、獣王とゼロスのやりとりである。
『ゼロス・・・シンデレラという話を知っているかい?』
『は?・・・いいえ??』
何故、いきなり”シンデレラ”なのか、とゼロスは首をかしげる。何か休みと関係が・・・??
『シンデレラというのはね、御伽噺。その話に出てくるシンデレラというお姫様のサクセスストーリー。
小さい頃に母親を亡くし、不憫に思った父親が継母を迎えるのだけれど、その継母が大層な意地悪でね、
シンデレラにあれこれ言いつけてこき使うのさ』
『…………獣王様?』
『朝も夕もなく、働かされるシンデレラ。だけど、その働きが認められ幸せを得ることになる』
『・・・は、はぁ・・・・??』
『だから、あんたも休みがもらいたかったら、今以上に働きなさい!いい、わかった!?』
『…………わかりました』
「と、言われてお休みをいただけなかったんです!」
「・・・・・・・・・。・・・・・・・・」
何か・・・引用の仕方が間違ってないだろうか・・・・?あたしの気のせい?
「ですが、僕がその”シンデレラ”というお話を調べてみたところっ!」
そんな暇があれば、獣王も仕事して欲しいと思うけど・・・・。
「重大な事実が発覚したんですっ!」
「・・・・・・で?」
「シンデレラは王子と結婚して幸せに暮らすんですっ!これは人間世界の話ですから、そうするとシンデレラが働いたという期間は多くても、たかか十数年!僕なんてこのかた千年以上働いているのに・・・っ!」
「・・・・・。・・・・・・・」
「だとしたら、もう十分お休みをいただいてもいいと思いませんかっ!リナさんっ!!」
「あたしに言われてもどうしようもないと思うけど・・・」
「大丈夫ですっ!リナさんは獣王様のお気に入りですから、そこはちょっと口をきいてくだされば・・・」
どこの魔族が人間にそんなことを頼むのか・・・・。
あたしは、大きくため息をついて、心底哀れむようにゼロスを見てやった。
「・・・・・ゼロス。確かにあんたのいうことももっともだと思うわよ。それは千年も休みなく働かされれば、休みの一つも欲しいって思うのも道理でしょう」
「リナさんっ!やっぱりリナさんはっ!!」
「待てっ!・・・確かに、理解は、出来るわよ。でもね」
「はい?」
「実はあのシンデレラの話には続きがあってね……」
「え!?そうなんですか??」
「そうなの。・・・王子と結婚したシンデレラはこれから幸せに暮らせる、と思ったのも束の間。再び前と変わりなく働くことになるのよ」
「えっっ!?どうしてですかっ!!」
「実は……シンデレラの継母は王子の実母だったのよっ!!」
「そ……そ……そんな……っ」
あたしの言葉に衝撃を受けたらしいゼロスが、後ろへよろける。
「そんな・・・・っ!でしたら僕は・・・僕はこれからもずっと休みなく働かなければいけないんですかっ!?」
問いかけられ、あたしは重々しく頷いてやった。
「そんなーっ!!!酷いですーーっ!!!!!」
瞬く間に、ゼロスの姿が宙へと消える。
「……。……」
あたしは思った。
絶対に、遠くない未来。
魔族は自滅するに違いない、と。