衝 動


「ねぇ、キスして」
「・・・・・・」

 ゼロスは驚きに目を見開いた。


「り・・・・リナさん?」
「ん?」
「あの・・・耳の錯覚でしょうか・・・今、何か聞こえたような」
「『キスして』?」
「そうそう・・・・・・・・・て・・・・」
 ゼロスが笑顔で固まる。
 この世に生を受けて千年以上、かつてここまでゼロスを動揺させた一言があっただろうか・・・・もちろん、無い。

「何、驚いてんの。で、どうするわけ?」
 リナが挑戦的にゼロスを見上げた。
 驚愕からさめやらぬゼロスはリナのそんな顔に・・・我にかえった。
 紫色の瞳が弧にゆがむ。

「よろしいですよ」
 ゼロスはリナの手をとり、引き寄せる。
 顎に手を置き、持ち上げると色艶のいいリナの唇にそっと口づけた。
「ん・・・」
 柔らかいその唇の間を割り、ゼロスの舌がリナの熱い口腔へ入ってくる。
 互いの舌をからませ、感触をわかちあう。
 こうしてリナの熱を感じるとき、ゼロスは己が体温の無い冷たい体であることを忘れてしまう。
 
 目元をうっすらと朱に染めて陶酔しているリナは、普段の初々しさとはまた違った魅力を放っている。

 愛しい。

 唐突にゼロスの胸に沸き起こる衝動。
 リナ以外の誰にもそんな感情は持ちはしないだろう。


「リナさん・・」
「ゼロス・・・」

 唇から溶けていく。








「しかし・・・どうしたんですか、リナさん?」
 照れ屋のリナが自分からキスをねだるなど驚天動地の出来事だ。
「別に。したくなったから」
「・・・・・」
「ゼロスの顔見てたら・・・何であんたなんか好きになったんだろうってむかついたから・・・とりあえずキスして気の迷いかどうか確かめたの」
「・・・ひ、酷いです、リナさん・・・」
「役得でしょ、役得」
 白いシーツにくるまったリナはくすりと笑う。
「それに・・・」
「それに?」
「・・・・・じゃないってわかったし」
「!?」
 ゼロスが振り向くとリナはシーツを頭まですっぽりと被り、栗色の髪の毛だけが
 ちょこんと飛び出していた。
 ゼロスの顔に、心底嬉しそうな表情が浮かぶ。







「リナさん・・・・好きですよ」

「・・・・ばーか」