外出はご用心!


「行ってらっしゃ~いっ!」
 お出かけ前のキスをして、姿が見えなくなるまで手を振ってあたしはゼロスを見送った。
 そして、あたしは家の中に入るとゼロスが用意してくれたおやつを食べながら文字を覚えるために本を読む。
 それが日常。

 でも・・・・・・・・・・。


「すっごくいいお天気・・・・・」
 窓から見える空はどこまでも青く、たなびく雲がとても気持ちよさそう。
 耳には鳥の鳴き声が聞こえて、目には暖かな光が射し込んでくる。


『リナさん、一人で外に出てはいけませんよ』


 いつもにこにこ顔のゼロスがとっても真面目な顔をしてあたしに言ったから、どんなに外
が気持ちよさそうでも出るわけには行かない・・・・・・・・・・けど。
 けれど。

「ひまぁ~~~~っ!!」
 毛足の長い絨毯にごろんごろんっと転がってアピールしてみるが家にはあたし意外誰にもいなくて・・・・返ってくる言葉はない。
「・・・・・・・・・・・ふぅ」
 ・・・・・・面白くない。

「・・・・・どうしてあたしだけ一人で外出ちゃだめなのよ・・・・」
 ゼロスだって窓の外を通る人影だって全部一人なのに。
 あたしだけ一人じゃ駄目なんて不公平じゃない?
 ・・・・・そりゃあつい最近まであたしは小さなプランツで右も左もわからないお子様だったかもしれないけど今のあたしは違うんだから!!

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「・・・・・よしっ!!」
 決めた!!
 どうせゼロスは夕方まで帰って来ないし・・・・それまでに帰ってくれば大丈夫!
 それであたしが一人でも大丈夫っ!て証明してあげるんだから!



 あたしは外出用にゼロスに買ってもらった花飾りのついた帽子をかぶり、ポシェットを肩にかけるといつもゼロスを見送る扉に手をかけた。



「行ってきま~すっ!」
 そして外へと一歩足を踏み出したのだ。










 思っていた通り、外はぽかぽかしてそよぐ風がとっても気持ちいい。
 
「・・・・どこに行こうかな・・・・」
 いつもゼロスと一緒に外出するときは車に乗っているのでこのあたりはよくわからない。
「ま・・・適当に歩いてみましょ♪」
 家の前の道をずっと南に行くと大きな通りに出た。
 見たことのある車、ない車が行き交い人もたくさん歩いている。


「そこの可愛いお嬢さん」
 ・・・・・・あたしのこと?
 くるりと後ろを振り向けば、見知らぬおじさんが笑っていた。
「あたしのこと?」
「ああ、そうだよ。どうだい、お嬢さんに似合いそうなものたくさん置いてるよ」
 見れば、おじさんの前の机には色んなアクセサリーが置かれていた。
「これなんかどうだろうね?お嬢さんの瞳の色と同じルビーを使った耳飾りだよ」
 ホントだ・・・あたしと同じ色してる。
 手にとって見ると光を反射してきらきら光ってとっても綺麗。

「あ・・・・でも」
 あたしはそれを机に戻した。
「どうしたんだい?気に入らないかい?」
「ううん、とっても綺麗だし欲しいけど・・・・・これ買うのってお金がいるんでしょ?あたし持ってないの」
 いつもゼロスと一緒だからあたしはお金を持つ必要なんて無かった。
 ・・・・・・ゼロスの部屋を探して持ってくれば良かった・・・・・。
「ああ、そうなのかい・・・・ん~、そうだっ!じゃあこれはお嬢さんにあげるんじゃなくて預けておこう。またここに来た時にお金を払ってくれるといいよ」
「ホントっ!?」
「ああ、この耳飾りもお嬢さんにしてもらいたいようだし・・・・それにお嬢さんの悲しそうな顔を見るのはおじさんもつらいからね」
 そして、おじさんはあたしの手にその耳飾りを握らせてくれた。
「ありがとう!おじさんvv」
「どういたしまして、おじさんにはお嬢さんの笑顔が何よりさ」
 その言葉が嬉しくてあたしはさっそくに耳飾をつけてみた。
「似合うよ」
「・・・ふふ♪・・・おじさん、あたし後で絶対にお金払いに来るから!」
「ああ、いつでもいいよ」
 笑うおじさんに手を振るとあたしは大通りを西へ向かって歩き出した。





 ・・・・・・・いい匂いがする。
 どこから匂うのかしら?

 香ばしくて甘い、いい匂い。

 ・・・・・そういえばゼロスが作ってくれたお菓子残してきちゃった。

 あたしはふらふらとその匂いに誘われるように歩くと一軒のお店の前に着いた。
 レンガ色をしたそのお店には色んなパンが並んでいた。
 ・・・・・・パン屋さんだったんだ・・・・・。

 焼きたてのつやつやしたパンがお店にいっぱい並んでる。
 ふっくらしていて・・・・・動物の形をしたやつもある。
 長細いのや、丸いの・・・・三角なのもある。
 ぜ~んぶすっごく美味しそう!!

  ・・・・・・食べたいなぁ。


「どうだい、食べてみるかい?」
 じ~っと見つめていたらパンと同じようにふっくらしたおばさんが切ったパンをお皿にのせてあたしに差し出してきた。
「え・・・あ、でも・・あたし、お金持ってないの・・・・」
「そんなものいりゃあしないよ!これは味見さ♪食べて美味しければまた来て買っておくれ」
 おばさんはウィンクしてほら、お食べとあたしにお皿ごと手渡した。
「・・・それじゃ・・・・いただきますっ!」
 ぱくっと口にいれたそれは・・・・・・・・・とっっても柔らかくてほっぺたが落ちそうなほど美味しかった!
「とっても美味しいっ!」
「ありがとうよ、お嬢さん。せっかく誉めてもらったんだからこれでもお土産に持って行って
おくれ」
 そうして渡してくれた袋に入っていたのは手のひらサイズのクィニーアマン。
「うちの人気商品だよ!」
「貰ってもいいの?」
「ああ、お嬢さんに食べてもらえればこいつも本望さ!」
「・・・・ありがとうっおばさんっ!!」
「どういたしまして、また来ておくれね」
 あたしは右手に袋を握り締め、左手でおばさんに手をふってお店を後にした。



 ・・・・・・外出ってすっごく楽しい!!
 お金なくても全然大丈夫だし、みんな優しいし!!
 ・・・・・どうしてゼロスは駄目なんて言ったんだろう・・・・??
 ・・・・ちょっとずるいわよね!!



「お嬢ちゃんっ」
 あたしがそんなことを思いながら歩いていると通りの横から声をかけられた。
 細い路地に通じる家の壁に背をあずけているお兄さん。
 ・・・・・ゼロスよりちょっと年上かなぁ・・・・・
「どこ行くの?」
 そのお兄さんがあたしの前に出てきて笑ってと尋ねた。
「え?別に決めてないけど・・・」
 着の身着のままに歩いていたあたしはそう問われて返事に困った。
「だったら俺と一緒に行かない?いいとこ知ってるんだ」
「いいとこ?」
「そ、いいとこ♪」
 首をかしげたあたしの腕をお兄さんが掴んだ。
「え・・・ちょ・・・・っ」
 あたしまだ行くって言ってないのに・・・・っ!!
「離して・・・っ!」
 掴まれた腕を必死で離してもらおうと思ってもお兄さんの腕は全く離れてくれない。
「・・・・いや・・・っ・・・・」
「いいから、いいから。何も心配いらないって」
 ・・・・お兄さんの笑顔はおじさんの笑顔ともおばさんの笑顔とも違う。


 全然、違うっ!!


「やだ・・・・やだっ!!!ゼロスっ!!!!」
 口をついて出たのはゼロスの名前。
 傍に居ないってわかってるけど・・・・・呼ばずにはいられなかった。







「・・・・・リナさんっっ!!!!」


「・・・ゼロスっ!?」
 どうしてここにいるの????
 目をやればゼロスがこちらに駆けてくる。
 いつも笑顔を浮かべている顔は怒っているみたいで・・・・・・。

「ゼロスっ・・・」
 名前を呼んでゼロスのところへ行こうと思ったあたしは腕を掴まれたままだったことを
忘れていた。
「離して・・・離してよっ!!」
 めちゃくちゃに暴れてやったのにお兄さんはまだあたしの腕を掴んだまま。
 ・・・・・どうしようっ!!
 


 そう思ったあたしの脇を風が横切った。






「リナさんに汚らわしい手で触らないで下さいっ!!!」
 

 バキョォォォッッ!!!!

 
 凄まじい音に一瞬目をつむり、開いたあたしはお兄さんがはるか前方に吹っ飛んでいく
のが見えた。
 ・・・・・・・飛んでいく途中にある屋台もめちゃめちゃにしてお兄さんの頭には麺やナルトがデコレートされている。
 ・・・・・・・もったいない。



「リナさん・・・ご無事でしたか!?」
 目の前にいたゼロスが拳をふりふり聞いてきた。
 そっか・・・ゼロスが殴ったんだ・・・・・・・。
「リナさん?どこか怪我でも!?」
 何も答えないあたしに勘違いしたゼロスは、手やら足やら頭やら・・・・至るところをチェックしていく。
「ああ・・・・別にどこにも怪我は・・・・・・・・・っリナさんっ!?」
 安心した表情を浮かべたのもつかの間、あたしの顔を見たゼロスは先ほどとは比にも
ならないほどの驚いた顔をしていた。
「リリリリ・・・リナさんっ!?や、やはりどこかに怪我を・・・っ!?どこですか?どこが痛むんですかっ!!」
 ・・・・どこにも怪我なんてしてないのに・・・・。
 だからあたしは首を横に振った。
「では・・・・先ほどの男に何かされたんですかっ!?」
 また、あたしは首を振る。

「では、どうして泣いてるんです・・・・リナさん。貴女に泣かれると僕はどうして
いいのかわからなくなってしまいます」
「え・・・・」
 あたし・・・・・・・・・・泣いてる?
「リナさん・・・・」
 ゼロスの優しい指があたしの頬を撫でる。
「・・・・・ゼロス・・・ふぇっ」
「り、リナさんっ!?」
 ゼロスの胸にしがみついたあたしの頭の上から慌てた声が名前を呼ぶ。
「・・・ゼロス・・・・ゼロス・・・・・・・・・・・・怖かったのっ」
「リナさん・・・・・・・貴女が無事でよかったです」
 ゼロスはそう言ってあたしの髪を撫でてくれた。
 ゆっくり、落ち着くまで・・・・・。

















「リナさん、これで僕が外に出たら駄目ですと言ったわけがわかりましね?もう二度と一人で出かけるような危ないマネをしないで下さいね」
 あの後ゼロスに連れられて家に帰ったあたしには案の定、お説教が待っていた。
「まったく・・・・十年は寿命が縮みましたよ・・・」
「・・・・ごめんなさい」
 ふか~く反省したあたしは素直に謝る。

 ・・・・・・・でも、あたしは一人で外出するのを諦めたわけじゃないんだから!!
 今回のことでよくわかったもの。
 外はいいこともあるけど悪いこともある。
 だから一人で外出するときには・・・・・・・・・・・・。


 
 ゼロスのように強くないとだめなのよっ!!!



「・・・・あの、リナさん?」
「大丈夫!!次に外に出るときにはあたし、もっと強くなってるから!」
「リナ・・・さん!?」
「頑張るからね、ゼロス!!」





 そして数日後。
 ゼロスに買ってもらった器具で筋トレに励むあたしの姿があった。