朝はあ~んなに日が射して天気だったのに、いったいどんな恨みがあたしにあってか、空には突如として暗雲が広がり目の前をちらほらと白いものが舞い始め・・・・・・・・・・気づけば。
「積雪1メートルて何の冗談よっ!!」
リナは体を半分雪に埋まらせて叫んだ。
もっともその言葉は”ふぬっふぬぬっふぬぅっ!!”としか聞こえないが。
それも無理はない。
今のリナは一見しただけですぐに”リナ=インバース”だとはわからない格好をしていたのだから。
頭には極太の毛糸に耐風の魔法をかけたミスリル繊維を混ぜて織り上げた顔の半分まで隠れてしまうような帽子。
耳にはふさふさのイアーマフ。
口元は布で隠し”今から強盗にでも?”と聞かれかねない様子で、首にはマフラーがとぐろを巻いている。
そして全身は普段着ている魔道服の上にセーターを何枚も・・何十枚も重ね着して、仕上げに分厚いコートをはおっている。
人間の姿を表すのに三頭身や八頭身とはよく言うが、今のリナの姿を見れば皆、口をそろえて言うに違いない。
『丸』・・・と。
「リナさん、ガウリィさんっ、ゼルガディスさんっ見てくださ~い!!」
アメリアが白い雪に埋まりながら手をふっている。
「ふぬっ?(なにっ?)」
「雪だるま作りましたっ!!名づけて『正義の味方、雪だるまん』っ!!」
リナがその言葉に目をやると・・・そこにはアメリアの背丈を優に越す巨大な雪だるまがあった。
「もう1つ作りますねっ!!」
この雪と寒さの中、めげないどころか普段より一層元気になったアメリアは再び雪の中を駆け出した。
「・・・・元気だなぁ、あいつ」
とガウリィが言えば
「子供なんだろう」
とゼルが答える。
「・・・・・・・・はぁ」
その姿に疲れたように肩を落としたリナは溜息をついた。
こんな寒いところからはさっさとおさらばしたいのだ。
しかし。
かかし。
おかし。(寒さで思考もおかしい)
この近隣には街どころか村もない。
何故ならばここはドラゴンズ・ピーク。
人など滅多に近寄らない場所である。
そこにリナたちがいるのは何故なのか?
「なぁ・・・リナ・・・・いつまでここに居るんだ?」
ガウリィがなさけない顔で尋ねてくる。
お腹をさすっているところを見ると空腹も限界に近づいているようだ。
「ふふぬふひっ!!ふふふにっふんっふほほいっふぬっ!!」
「・・・・とは言うけどなぁ~~」
「・・・・・・・ガウリィ、どうしてそれで言ってることがわかる・・・・?」
リナとガウリィのやりとりを見ていたゼルガディスが呆れたように呟く。
「え、リナは『仕方ないでしょっ!ミルガズィアさんが来ないんだから!』て言ってるんだよなぁ?」
「ふぬっ!」
「『そうよっ!』、だってさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。もういい」
ゼルガディスは頭をかかえたのだった。
「みなさ~んっ!雪だるま皆さんのぶんも作りますからねっ!!」
すでに二つ目を作り終えたアメリアが叫ぶ。
「おお~頑張れよ~」
「・・・・勝手にしてくれ・・・」
竜の長老が呼んでいるというのでわざわざやって来てみれば、ひたすら待たされる日々・・・・いい加減ゼルガディスも嫌になっていた。
「あ・・・・あれおっさんじゃないか?」
ガウリィが空を示した。
もちろんそこには曇天の雲しか見えない。
「本当か?」
「ああ」
だが、ガウリィの視力は化け物並である。
やがて、ガウリィの指差した方向に黄色い粒が見え始めた。
「やっと来たか・・・」
だんだんと黄色い粒は竜の形をとり、巨大な黄金竜がリナたちの前におり
たったのだった。
「いやぁ、すまん。人間たちよ」
「遅すぎるぞ」
「大晦日からの酒盛りが予想外に長引いてな・・・すまん」
「・・・・て長引くて1ヶ月近くも酒盛りしていたのか・・・・?」
さすが竜。
時間の感覚が人間とは全く違う。
「お久しぶりです、え、とミルガズィアさん!」
アメリアが寄ってきて挨拶する。
「お手紙をいただいたんですか、何の御用だったんでしょうか?」
「ああ、それなのだが・・・・・・・・リナ=インバースはどうした?」
「リナ?リナならそこに・・・・・・・あ?」
3人は振り返るがリナが居ない。
「あれ~リナぁ??」
「リナさ~ん??」
「どこに行ったんだ?」
「さっきまでそこに居ましたよねぇ?」
「ああ、あの格好で動けるとは思えんし・・・・」
ぐるりと周囲を見渡す一同。
一面雪が積もり、白銀の世界の中。
常緑樹の枝から時おり、どさどさっと雪が落ちる。
その脇にアメリアが製作した雪だるまが並ぶ・・・・・・・5つ。
「「「・・・・・・・・・5つ・・・・・・?」」」
違和感を覚えた3人が首をかしげた。
「おい、アメリア。確か人数分作ると言っていたな?」
「はい、確かに4人分作ったはずなんですが・・・・・」
「・・・・・増えたのかぁ?」
「勝手に増えるわけがないだろうがっ!」
「・・・・ということは・・・・・・・・」
「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」
「もしかして・・・・・・」
「・・・・・・・あの端の1つは」
「リナさんっ!?」
「リナっ!?」
「リナかぁっ!?」
予想通り。
駆け寄った3人が慌てて雪をはらうと、完全に寒さで硬直したリナが出て
来たのだった。
急いで竜の長老がおこした火で暖をとる。
「・・・・・死ぬかと思ったわ・・・・」
まだ、がちがちと歯をならしていたがリナは何とか半凍死状態から復活して
いた。
「だいたい身動きできなくなるまで着込むのが悪いんだろうが・・・・」
「だって寒いのよっ!!」
全ての諸悪の根源は”寒さ”にあると言わんばかりである。
「まぁまぁ、とりあえずぬくもりましたし・・・・」
「そうね、ミルガズィアさん。あたしたちを呼び出した用件を聞きましょうか?」
「ああ、そうだったな」
竜の長老は4人に対し、居住まいを正した。
「あけましておめでとう」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」」」」
いきなりの新年の挨拶に4人は揃って間抜けな声を発した。
「人間の世界では親しいものにこうして挨拶をするのだろう?」
「いや、まぁそうですけど・・・・」
「何も今されなくても・・・」
「正月はとっくに過ぎてるしな・・・」
「・・・で用件は?」
「今のだが」
「・・・・・・・・はい?」
真面目な顔をして冗談を言っているんだろうか・・・この竜は。
リナの笑顔が固まる。
「あの、もしかして・・・・・」
「用件というのはそれだけなのか・・・・・?」
「ああ、一度してみたくてな・・・人間の知り合いなどお前たちしか居ないもの
なのでな」
はっはっはっは・・・・と笑う竜の長老。
「・・・・・・・・・・・許さない」
ゆら~~りとリナが不気味な微笑みを浮かべて立ち上がった。
「り、リナ!?」
「リナさんっ!?」
「おいっ・・・っ!?」
「どうした、リナ=インバース?」
『竜破斬っ!!!!』
「どわ~こんなところで竜破斬をうつな~っ!!」
「リナさ~~~んっ!!!」
「おいっやめろ・・・っ!!!」
しかしリナは完全にキレていた。
その後、しばらくドラゴンズ・ピークには竜破斬が木霊したという。
そんな冬のある一コマだった。