秋色秋味


「はぁ・・・・秋よねぇ・・・・・」
 リナがしみじみと言う・・・・・・目の前に積み重なった大量の皿を見ながら。
「リナさんは、秋とか関係ないので・・・・いえ、何でもないです」
 リナの無言の睨みにアメリアが口を閉じた。
「秋といえば、やっぱり・・・・」

「食欲の秋ですよね、リナさん♪」
 中空より現れたゼロスが人差し指を立てながら断言した。
「誰がよ・・・」
「リナさんが、ですよ。それ以外の秋なんてリナさんには・・・・」
 リナのスリッパ攻撃。
 ・・・・が。
「ははは、いつもいつも引っかかりませんよ、僕も・・・・っ」
 第一撃をからくも避けたゼロスはリナの返す刀・・じゃなくスリッパで机に顔面を埋めた。
 しかもスナップがきいていつもより強力だ。
「ふっ、甘いわよ。ゼロスっ!」
 リナは片手でスリッパを掲げ持ち、残る片手を腰にあて勝利のポーズをとる。
 
 ・・・・・・・・ここが普通の食堂だということはすでにリナの頭には無かった。

 ゼルガディスが他人のふりをしようと、そろりそろりとテーブルを移動する。
 ガウリィはいつものように何も考えてない。



「・・・では、リナさんは何の秋なんですか?」
 復活したゼロスがリナに尋ねた。
「そんなの決まってるじゃない。読書の秋よ読書の」
「えー、何か普通じゃありませんか」
「普通じゃ悪いのか・・・?」
「だって本人が普通ではないのに、普通なことをするのは変でしょう?」
 ゼロスの言葉にリナの額に怒りマークが浮かんだ。
「魔族のあんたにそこまで言われる筋合いはないと思うんだけど・・・だいたい何であんたこんな所に涌いてきたのよ?」
「涌いて、て・・・・僕、ぼうふらじゃないんですから・・・・」
「似たようなもんよ」
 あっさりと言い切られたゼロスは部屋の隅のほうでのの字を書き始める。
 そんなゼロスをリナは無視すると、立ち上がって部屋を出て行く。
「リナさん、どちらへ?」
「魔道士協会の図書館。今、普段は見られない魔道書が公開されてるのよ」
「では、僕もご一緒に♪」
「・・・ま、いいわ」
 何だか飼い主になつく犬のようなゼロスになんとも言えない妙な顔をしながらもリナは
 肯いた。






「リナさん・・・・・リナさん、リナさん・・・リナさん、リナさ~ん」
 むかむかむかむか。
「リ~ナさ~んっ!」
 ばしぃっ!
 リナは読んでいた貴重な魔道書を机に叩きつけた。
「ゼ~ロ~ス~ぅ・・・静かにしておけないのっ?」
「だってリナさん、ずっと本読んでるからつまらないんです」
「そんなの最初からわかってたことでしょっ!!」
「そうですが・・・僕がつまらないじゃありませんか」
「・・・・・・何であんたを喜ばせなきゃいけないのよ・・・・・・」
 ジト目でゼロスを見つめる。
「それはやっぱりリナさんと僕とは人目もはばかる関係ですし・・・」
「誰がはばかるかっ!!」
 リナの頬がうっすらと赤くなる。
「人聞きの悪いこと言わないでよっ!!」
 とんとん。
「だいたい、あんたはねぇっ!!」
 とんとんっっ!!
「いつもいつもっ!!!」
 とんとんっっ!!!
「何よっ!!うるさ・・・・ぁ」
 肩を叩かれ、振り向いたリナはそこに図書館の司書の笑顔を見た。






「・・・・たく、ゼロスのおかげでせっかくの魔道書見られなくなったじゃない」
 そう、あまりに騒々しい二人は図書館から追い出された。
「でもお陰でリナさんと二人きりでこうして散歩できますね♪」
「・・・・・・・ゼロス、あんた今日はやけに絡んでこない?」
「そうですか?」
「うん」
 ほてほてと歩く二人の足元に紅葉したもみじが落ちてくる。
 目の前にずっとつづくもみじの並木道。
 こういう風景を見ると、やはり秋だと思ってしまう。
「やはり、秋だからでしょうか・・・・」
「秋、ねぇ・・・・ゼロスが?」
 くすり、とリナが笑いを漏らす。
 ゼロスがあまりに似合わないことを言い出すものだから。
「偶には・・・・こういうのも良くありませんか?」
「まぁね」
 たまには、戦いも忘れて穏やかに過ごすのもいい。
「ホント・・・偶にはこういうのもいいかもね」
「はい」
 

 二人はゆっくり、ならんで紅葉の並木道を歩く。


 穏やかで優しい日。


 
 そんな秋の一日。