短編集


『甘い感情』

 漂うのは甘い空気。
 愛しい人の・・・・「気」
 
 気配を殺して忍び込んだ彼女の部屋。
 規則正しい寝息が聞こえてきた。
 
 シーツからのぞく艶のある栗色の髪に手を触れる。

「リナさん・・・」
 想いはとどまるところを知らず溢れ出す。

「・・・ん」
 漏れた声に咄嗟に手をひき、そして再び触れた。
 彼女の・・・僅かに開いた唇に。
 
「リナさん・・・」
 愛しさをこめて呟くと、そっと寝台に滑り込む。
 彼女を抱き込み、そのやわらかさとぬくもりにしびれるような酩酊を感じた。
 

 そして、朝―――

「だ~っ!!あんた何、乙女のベッドで無断で寝てるのよ!!」
「え?お断りしたらご一緒してもよろしかったんですか?」
「ちっが~うっ!!このボケ神官!!」
「ええ、酷いですよ~リナさ~ん」
「うるさいっ!!ゼロスっ!!ほら、さっさと部屋から出て行かないと・・・・」
 おっと、危ない。
「仕方がありません、ではまた朝食に時にお会いしましょう、リナさん♪」
「・・・・こぉのヒマ魔族ぅぅぅぅ!!!!」

 そして、僕は彼女の感情を楽しむ、甘いその感情を・・・・





『黎 明』




「ゼロス・・・・」
 
 闇が明ける。
 太陽の光が窓から差し込み、一日のはじまりを世界に知らせる。
「リナさん・・・」
 あたしの横で闇が横たわっている。
「ゼロス、どうしたの?」
「貴女を奪う光が・・・時おり酷く憎らしいです」
「嘘・・・」
「嘘などではありません。ずっと夜ならば貴女を永遠にこの腕の中に抱いていられる
のに・・・」
「それなら・・・光だって夜の間、闇にあたしを奪われて憎んでいるかもしれないわよ?」
「ええ、そうかもしれませんね。何しろ貴女は・・・」
 ゼロスは恭しくあたしの髪に口づける。
「リナ=インバースは、世界にただ一人の至宝ですから」
「・・・口だけは達者なんだから」
「おや、口だけではありませんよ。リナさんもご存知でしょう?先ほどまで・・・それを証明
してさしあげていたのですから」
「ば・・・・っ」
 ゼロスのあけすけなセリフに頬をあつくなる。
「もう少しの間、こうして貴女を抱いていてもいいですか?」
「・・・・・・・仕方ないわね、特別に許してあげる」
「ありがとうございます」

 そして、あたしたちは光が中天に昇っても寝台の中にいたのだった。




『堕 落』




 「ゼロス・・・」
 「リナさん・・・」
 2人はテーブルをはさみ、見つめあった。
 リナの深紅の瞳はいつもよりも輝き、しっりと潤んでさえいるようで・・・。
 ゼロスの普段は閉じられている暗紫色の瞳もリナをしっかりと見つめている。
 「あの、ね・・・ゼロス・・・」
 「・・・何でしょう、リナさん」
 2人は視線をはずさない。
 「今日は・・・2人で、その・・・デートしてるわけよね?」
 「はい」
 「・・・・ということはやっぱり・・・」
 「やはり・・・・」
 一層強くリナとゼロスの視線が交わった。
 

 「食事はゼロスのおごり!!よね?!」
 「ええ~~っっ!!!!」
 「何よっ!!レディに払わせようって言うの!!」
 「・・・・レディ?」
 「・・・何か、文句あるの?」
 リナの瞳に「殺」の文字が浮かんだ。
 「い、いいえっ!!!」
 ゼロスが振り切れるのでは?と心配するほどに首を振った。
 「んじゃ、ここはゼロスのお・ご・り・ね♪」
 「は、はぁ・・・」
 「じゃあ、お姉さ~ん!!Bセット2つとCセット3つとデザートにいちご盛り5人前と
レイシのシャーベット3人前追加でお願い~~♪」
 「リ、リナさん・・・」
 ゼロスの額から汗が伝い、落ちる。
 「なぁに?」
 にっこり、とリナは極上の笑顔をゼロスにみせる。
 「・・・な、何でも頼んでください!!」
 (ふっ、堕ちたわね)
 リナは心の中で呟いた。
 「それじゃぁ・・・・」
 そして再び注文の追加をはじめた。
 ・・・・ゼロスが泣いて止めるまで。
 
 「やっぱりデートはこうじゃないとねっ♪」
 「しくしくしくしく・・・・・」

 堕とされたゼロス。
 彼の苦難は続く(笑)。




『堕 落』




 「ゼロス・・・」
 「リナさん・・・」
 2人はテーブルをはさみ、見つめあった。
 リナの深紅の瞳はいつもよりも輝き、しっりと潤んでさえいるようで・・・。
 ゼロスの普段は閉じられている暗紫色の瞳もリナをしっかりと見つめている。
 「あの、ね・・・ゼロス・・・」
 「・・・何でしょう、リナさん」
 2人は視線をはずさない。
 「今日は・・・2人で、その・・・デートしてるわけよね?」
 「はい」
 「・・・・ということはやっぱり・・・」
 「やはり・・・・」
 一層強くリナとゼロスの視線が交わった。
 

 「食事はゼロスのおごり!!よね?!」
 「ええ~~っっ!!!!」
 「何よっ!!レディに払わせようって言うの!!」
 「・・・・レディ?」
 「・・・何か、文句あるの?」
 リナの瞳に「殺」の文字が浮かんだ。
 「い、いいえっ!!!」
 ゼロスが振り切れるのでは?と心配するほどに首を振った。
 「んじゃ、ここはゼロスのお・ご・り・ね♪」
 「は、はぁ・・・」
 「じゃあ、お姉さ~ん!!Bセット2つとCセット3つとデザートにいちご盛り5人前と
レイシのシャーベット3人前追加でお願い~~♪」
 「リ、リナさん・・・」
 ゼロスの額から汗が伝い、落ちる。
 「なぁに?」
 にっこり、とリナは極上の笑顔をゼロスにみせる。
 「・・・な、何でも頼んでください!!」
 (ふっ、堕ちたわね)
 リナは心の中で呟いた。
 「それじゃぁ・・・・」
 そして再び注文の追加をはじめた。
 ・・・・ゼロスが泣いて止めるまで。
 
 「やっぱりデートはこうじゃないとねっ♪」
 「しくしくしくしく・・・・・」

 堕とされたゼロス。
 彼の苦難は続く(笑)。




『悲劇・喜劇?』



「ゼロス~ぅ」
 リナさんに猫なで声で呼ばれ、嫌な予感がしました。
 こういう予感は当たるんです。
「な、何でしょう・・・?」
 リナさんに呼ばれることは嬉しいですが、満面に笑顔を浮かべるその様子は・・・・・ちょっと恐いです。
 リナさんは笑みを浮かべたまま、こっちこっちと手招きします。
 ああ・・・・ますます嫌な予感・・・・・・
「はい、ここに座って♪」
「・・・・・・・どうしてです?」
「い・い・か・ら!!」
 にこにこにこ~~~っ。
 
 ・・・・・笑顔がこんなにも恐ろしいものだとは今まで思いもしませんでした。今度から気をつけましょう。
「・・・・どうしても座らないと駄目ですか?」
「うん♪」
 笑顔で最高に可愛く肯かれて僕は・・・負けました。
 しぶしぶリナさんの横へ腰をおろします。
 ・・・・普通ならとても美味しいシチュエーションなんですが・・・・・

 カシャン!

「・・・・っ」
 ちょっと油断していた隙に首に異物の感触。
 手で触れてみると・・・・
「な・・・何ですか~~これは~~っっ!!」
「首輪♪」
 リナさんは僕の質問にあっさりくっきり答えてくださいました。
「いったい・・・どうしてこんなものを・・・?!」
「だってゼロス、あんたすぐに何処かにいっちゃうでしょ。そうするとあたし困るし、便利なアイテムその3としては役に立たないでしょ?だ・か・ら♪」
 だから・・・・て・・・・・しくしく・・・・
「我ながらナイスなアイディアっ!!」
「・・・何処がですか・・・・・」
「何よ?不満?わざわざあたしがゼロスのために買ってあげたのよ!!」
 それが普通の買い物なら素直に喜べたんですが・・・
「丈夫ななめし皮だし」
「・・・・・」
「ほら、鈴だってるいてるのよっ!!!」
 がくっ。
 チリン、チリン。
 うなだれた途端に鈴が軽快な音を立てた。
 それがますます僕を悲しくさせました。
「どこの世界に首輪なんてつけた魔族がいるんですか!」
「ここ(どきっぱり)」
「・・・・・・・」
 にこにこにこ。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 にこにこにこ。
 
 無言の笑顔は・・・僕に取ったら許さないぞ!と圧力をかけているようでした・・・・・しくしくしく・・・・・・。
「気に入った?」
「・・・・・・・・・・はい」

 そして僕は今でも首輪をつけてお仕事に出かけています。
 ・・・・獣王様には指さして笑われました・・・。
 
 しくしく・・・しくしく・・・・しくしく・・・・





  『朝の月』

 
「もしリナさんが太陽だとすると僕は月ですね」
 隣に座るゼロスがぽつりと漏らした。
「何で?」
「月は夜の空に昇るもの・・・太陽は人の活動する日中に空にあるものです。二つは
決して同じ空にあることはありません。そして・・・僕とリナさんも・・・・」
 同じ世界に生きることは出来ない。
 いつもの笑顔を浮かべて、何でもないことのように話すゼロス・・・・でも、何だか
 寂しそうな気がするのはあたしの気のせい?
「はぁ、・・・・・あんた馬鹿?」
「え?」
「魔族のくせに・・・千年以上も生きてきたくせに知らないのね」
「・・・・・何をですか?」
「ほら」
 あたしは空を指差した。
 そこには・・・・・・白い月。
 夜の名残を伝えるように。
「向こうには太陽があるでしょ」
「・・・・はい」
「一緒に空にある時間は短いけど、それども太陽と月は”一緒に”昇っているわよ」
「本当です・・・・」
 ゼロスが太陽と月に交互に視線をやりながら感動したように呟く。
「だから、ね。あたしたちだって・・・・」
 一緒に居られる時間は短いかもしれないけど。

「一緒に生きることは・・・不可能じゃないわ!!」
 あたしはこれ以上ない笑顔を浮かべてゼロスを見つめた。
「・・・・・やはり貴女は、リナさん・・・ですね」
「そうよ、あたしは美少女天才魔道士リナ=インバースなんだから!!あたしに
不可能はないのよっ♪」
 

 朝の優しい光の中、二人は共に在った。



   『虫の鳴くころ』




 「リナさん、おはようございます」
 
 「リナさん、こんにちわ」
 
 「リナさん、3時にしませんか?いいお茶が手に入ったんです」
 
 「リナさn、ほっぺにご飯粒がついてますよ」
 それを手にとり、ぱくり。
 「とっても美味しいですね、リナさん」

 リナさん、リナさん、リナさん・・・・(エンドレス)


 
ぷち。

 何かがキレた音がした。

 「だぁぁぁぁっっっ!!ゼロスっ!!あんた朝から、リナさん、リナさん、リナさん・・・
 いったい何回呼べば気が済むのよっ!!いい加減にしてくれないっ!!」
 いきなり早朝からやってきたゼロスは始終リナのそばを離れず、何かあればリナの
 名前を呼んで、鬱陶しいことこの上ない。
 最初こそ、いつものことと放っておいたリナだったが一日が終るころ、とうとう我慢なら
 なくなった。(というより今までよくもった)

 「大した用が無いんだったら呼ばないでよっ!!」
 「仕方がありません、秋ですから」
 「・・・・・・・。・・・・・・・・・・・は?」
 何が仕方なくて、どうして秋につながる?
 そんなリナの疑問は顔に正直に現れた。
 
 「秋になると、虫がよく鳴きますよね」
 「・・・・うん」
 「どうしてあれほど鳴くんだと思いますか?」
 「・・・・・・・・・さぁ」
 リナの頭にはますます?マークが浮かぶ。
 そんなリナに、いつものように顔の前に指をたてて、暗紫色の瞳を開いた。
 「秋という短い季節の間に、唯一の伴侶に巡り会い、思いを遂げるために鳴くん
 ですよ♪」
 「・・・・・・・・・」
 「だから僕もリナさんに想いが届くように一生懸命に鳴いていたんです」
 リナは絶句した。
 「な・・・・な・・・・・・なっ」
 言葉にならない。
 「覚悟してくださいね」
 ゼロスは宣言し、リナを腕の中へ閉じ込めた。





 「でも、ゼロス・・・・・・・・虫は鳴いても風情があるけど、あんたの場合はちょっと
 うるさいわよね」
 「・・・・リナさぁぁぁぁんんんっっ」
 
 どうやらゼロスはまだまだ鳴かなくてはいけないらしい(笑)