異 色


ぼんやりと前を歩くリナのふわふわとはねる髪を見ながらガウリィは彼らの間に現れた気配に気がついた。

・・・・・それは人に非ざる気配。
最近、とみによく現れるようになったそれ。
・・・いったい何が狙いなのか・・・・予想がつかないわけでもないのだが
わからないふりで相手の出方を待つ。
・・・・もちろん、油断はしない。
いつでも剣を抜けるように手をそえる。

そして、一拍遅れてそれに気づいたリナが足を止めた。
顔には呆れた表情が浮かぶが、然程嫌そうではない。
・・・・・・それが少しばかりガウリィは気にいらないのだが。

「ゼロス、出てらっしゃい」

リナが声をかけた。
人に非ざる気配・・・・それは魔族。

「こんにちわ、リナさん」
ゼロスはわざと自分とリナの間に現れる。
「よぉ、ゼロス」
一応、自分も声をかけてみる。
・・・・・・・。
・・・・・・・無視、か・・・・・・ま、いいがな。
どうせリナ以外の人間なんか塵ほどにも思って無いんだろうしな。

「あんた最近ほんっとよく現れるわねぇ、クビにでもされた?」
リナが笑いながら話しかける。
どうもリナのやつはゼロスとの会話が好きらしく何かれとよくそんな皮肉るような言葉を口にする。
「これもお仕事ですよ、リナさん。貴女は魔族にとって大変貴重な方ですから♪もちろん僕にとってもリナさんは興味深い対象の一つですが」
「まったく中間管理職なんだから・・・」
リナはゼロスの言葉を本気にはしない。
だが、俺にはわかる。
ゼロスにとってリナは興味深い対象・・・なんてもので済む存在ではないはずだ。
その、笑みに隠された目が・・・・・・表情を裏切っている。
その証拠に・・・・・・・・・。

「リナ・・・」
傍によってリナの髪の毛をくしゃくしゃとかきまわす。
「ちょっとガウリィっ、いきなり何すんのよっ!!」
「え、いや~何か気持ち良さそうで・・・」

放たれるゼロスの殺気。
・・・・・・・・俺限定のそれは普通の人間なら心臓麻痺を起こして死にかねないほどに鋭く冷たい。

全くどうしてこんな厄介な奴ばかりを引き寄せるんだろうな、リナは。
ま、普通の男にこいつの相手はつとまらないか・・・・。

「リナさん、今夜も盗賊いじめにいらっしゃるんですか?」
「・・・え?ま、まぁね~~」
リナがちろりと伺うように俺を見る。
・・・・・また俺が邪魔しないか気にしてるんだろうなぁ・・・・・
「では、僕もご一緒させていただきましょう」
「はぁ?・・・・・・・・・・どうせまた食事でもするつもりね?」
「嫌ですねぇ、ただリナさんと少しでも一緒にいたいだけじゃないですか」
「・・・・・・・ま、そういうことにしといてあげる」
ゼロスの言葉にちょっと頬を朱に染めるリナはとてつもなく可愛い。
「くすくすくす・・・・リナさん、可愛いですよ」
「う、うるさいっ!!」
ぺしーーんっっ!!!
照れたリナが容赦なくゼロスの頭部にスリッパを命中させた。

「い、痛いじゃないですかっっ!!」
よく言う。
痛みなど感じない存在が。
「うるさいわねっ!!あんたなんか生ゴミなんだからね、生ゴミ!!」
そうしてますます顔を高潮させる。
「ひどいですよぉぉぉ~~」
泣きまねをしてみせるゼロスは、嬉しそうだ。


リナは「存在」を差別しない。
あるものをあるがままに受け入れる。
恐れない。
・・・・・・それはある意味根源に近い性質かもしれない。
だから・・・・・・・・・・・・。
俺は俺らしく、リナの隣にあることを許され。
ゼロスは魔族でありながら、「ゼロス」という一個の存在としてリナの傍に居ることが出来る。
リナの、リナであるがゆえに俺たちは「ここ」にあることを許される。
それが、どれほど心地よいことか・・・・・・。
手放すこと恐れるほどの快感。
ゼロスも・・・・・・・同じことを感じているはずだ。
だから俺たちはその「場所」を争う。




「リナさん、僕と契約しませんか?」
「あんたボケたの?あたし前に嫌だって言ったでしょ」
「お気が変わったのではないかなぁと思いまして」
「絶対に変わらない。だってあたしは今のままで十分満足してるもの。リナ=インバースという人間をね♪」
「そう言わず・・・」
「嫌なものは嫌。しつこい男は嫌われるわよ、ゼロス」
リナの言葉にあえなく撃沈されるゼロス。
「しくしく・・・・いいです、リナさんがそんなに僕のことを嫌っていらしたとは・・・・少々傷つきました」
「何言ってんだか、あんたが傷つくわけないでしょう?それにあたしは契約するのが嫌なのであって別にゼロスが嫌いって言ったわけじゃないでしょう」
・・・・・・・リナ、それは問題発言だぞ。
「本当ですか、リナさん!!そんなに僕のことを好いていて下さったと
は・・・・・感激です!!!!」
ほら、見ろ・・・・・・ゼロスの奴が喜んでるじゃないか。
・・・・・・・ていうか魔族のくせにそんな正の感情を持っていいのか?
「・・・・ばぁか・・・・」
赤い顔でリナが呟く。
・・・・・リナ、それ以上ゼロスを挑発するのはやめてくれ。
まったく・・・・自覚がない奴ほど厄介なものはない。


「リナさん、好きです」
ちゅっ!
リナの一瞬の隙をついてゼロスがその頬にキスをした。
「・・・・・・っっゼロスっっ!!!」
リナが真っ赤な顔でゼロスを殴る。
その口がもごもごと動いて・・・・・・・・・まずいっ!!

「竜破斬っっ!!!!」
どがしゃぁぁぁっっっっ!!!!!

「リナさ~~~~んっっっ!!!」
「リナ~~~俺を巻き込むなぁぁぁっっっ!!!」

俺とゼロスはリナの呪文で仲良く宙に舞った。



・・・・・・・こんなとこで仲良くてもな・・・・・・・・・・・・
俺は吹き飛ばされながらそんなことを思っていた。