ある日の日常♪


 うつら・・・うつら・・・
 こてん。
 ふぁぁぁぁ。
 
 春の麗。
 リナはプランツ用の豪奢な天蓋つきベッドに横になっている。
 ゼロスはいない。
 「仕事」ということで朝から出かけているのだ。
 ・・・・あたしを置いて。

 早く帰ってこないかな~。
 ・・・・暇なのに~。
 
 ころん。
 再び寝返りを打つ。

 リナは先ほどからずっとそんなことを続けていた。

 よしっ!
 いつまでもこんなことしててもしょうがないから・・・。
 
 リナはむくっと起き上がると、ゼロスに着せられたふわふわのレースをふんだんに使ったドレスを脱ぎ、動きやすい格好に着替えた。
 
 ゼロスを迎えに行こう。
 きっとリナが居るのを見たら驚くだろう。
 その顔が見たい。

 くすくすくすくす・・・・。
 リナの心は躍る。

 誰かを待つだけなのはもう十分!
 今度はあたしから彼を迎えに行くのだ。

 黒い髪に紫の瞳。
 あたしの大切な人はどこ?
 
 ぱしゃん。
 ぱしゃん。
 水溜りをはじく。
 
「・・・・服汚したら、ゼロス怒るかなぁ・・・」

 スカートに散った水を見てちょっとリナは考える。

「ま、いいか。そうなったら洗えばいいんだもんねっ!」

 そしてまた歩き始める。

 きっとリナは気づいていない。
 周りの視線に。
 
 リナは可愛い。
 それはもう可愛い。
 もうっさらってしまうほど可愛いっ!
 
 そんなリナが人の目を引かないわけがないのだが生憎リナは箱入り育ち。
 人々の思惑はわからない。
 
「お嬢さん、一人でどこに行くんだい?」
「・・・・え?」
 突然見知らぬ人間に話し掛けられてリナは驚く。
 そう言えば・・・リナが目覚めてゼロス以外に話したはじめての人間だ。
「一人で出かけるのは危ないよ?」
 お前のほうが危ないわい・・・とリナがもう少し世間を知っていたら思った
 かもしれない。
 だが繰り返すがリナは箱入り育ちだった。
「あのね・・・あたしの大切な人を迎えに行くのよ」
「そうなのかい、何処へ迎えに行くの?」
「え・・・と・・・・」
 何処なのだろう。
 あたしはゼロスが居るところ・・・・知らない。
 リナは急に不安になる。
 今まであんなにうきうきした気分だったのに・・・。
「お嬢さん?」
「・・・・・・わかんない。ゼロス何処にいるのかわかんない」
「それじゃあ、お兄さんが一緒に探してあげよう」
 その言葉に素直に喜んだリナは笑顔を浮かべて肯こうとした。

「ちょっと失礼しますよ」

「あ・・・ゼロスっ!!」
 振り向いたリナの目にゼロスの姿がうつった。
 駆け寄って抱きつく。
「リナさんっ、一人で出歩かないようにと言ったでしょう・・・」
「だってゼロスが帰ってこないんだもんっ!!ゼロスが悪いんでしょっ!!」
「ごめんなさい、リナさん。でもリナさん僕をお迎えに来てくださったんでしょう?
 嬉しいです♪」
「・・・・そうよ、ありがたく思いなさいよっ!!」
 そういうリナをゼロスは愛しげに見つめ、抱き上げる。
「・・・ということですので、僕たちはこれで失礼しますよ」
 リナを連れて行こうとした男をゼロスは見つめる。
 その瞳はリナに向けられたものとは全く違う、鋭く厳しい瞳だった。
 男の腰はひけ、後ずさる。

「リナさん、今回は僕が悪かったですけどもう一人で外には出ないで下さいね」
「・・・・どうして?」
「・・・・」
 そんなの決まっている。
 危ないのだ、とにかく危ないのだ。
 しかし、そんなことを言ってもリナは聞かないだろう。
「一人で出かけても面白くないでしょう?僕も出かけるときはリナさんと一緒がいいですし、ね」
「・・・・そうね♪」
 リナはあっさりと納得する。
 そういう所がゼロスには危ないことこの上ないと思わせるのだが、こういう彼女を好きになってしまったのだから仕方ない。
「さて、リナさん。お夕飯は何にしましょうか?」
 といってもプランツの食事はミルクと決まっているのだが。
「う~ん・・・美味しいものっ!!」
「はい、わかりました。特別に美味しいミルクをご用意しましょう」
 にこにこ。
 にこにこ。
 二人は幸せ。
 二人、だから幸せ。

「リナさん、大好きですよ」
 ちゅっ。
 頬にキスをする。
「う・・・・あたしも好きよ」
 リナの顔が真っ赤になっている。
 
 そうして二人は家路をたどる。
 ある日の日常。
 そして二人は幸せだった。