青薔薇


青い薔薇
存在することを許されぬ禁断の薔薇
妖しくも美しい毒の花



 あたしにとってあいつは青い薔薇だ。
 あたしは許されぬ存在に囚われた。
 毒が全身にまわり、あいつなしでは生きていけない体。



「リナさん、何を考えてるんですか?」
 窓辺に立ち、背後から月光を浴びる姿は夢のように美しい。
「・・・・・別に」
 あんたのことを考えていた・・・なんて言えるわけないでしょうが。
「僕といるときに他の存在に心を馳せるなど・・・・・酷いじゃないですか」
 月光でわからないがきっとその顔は笑っている。
「何言ってんだが・・・人間ていうのは絶えず何か別のことを考えずにはいられないのよ」
 そう言って、誤魔化す。
「だったら・・・・」
 あいつが滑るようにあたしに近づいてくる。
「僕以外のことを考えられないようにして差し上げます」
 暗紫色の瞳が妖しい光を放つ。
 触れた・・・・冷たい唇があたしの熱を奪っていく。
「・・・・・・ゼロス」
 それが禁断の花の名。







「はい、そこまで」
 あたしはベッドに押し倒そうとするゼロスの体を押し返す。
「リナさぁぁぁんっっ」
 仮にも魔族がそんな声を出すんじゃないっ。
「そんな声出してもだめっ!」
 あたしの容赦ない拒絶の言葉にゼロスが涙を流す。
 相変わらず芸の細かい。
 ・・・・・・・でもまだそれだけの余裕があるっていうわけよね。
「はいはい、あたしはもう寝るから出て行ってね♪」
「婚約者を追い出すんですかっっ!!」
 すぺーーんっ!!!!
「誰がいつあんたの婚約者になったのよっ!!」
「この間プロポーズしたじゃないですかぁぁぁっっ!!!!」
 ゼロスが杖をぶんぶん振り回して詰め寄ってくる。
 危ないでしょうがっ!!
「それなら断ったはずだけど?」
 冷たくそう言ってやる。
 ・・・・・・・・・・あ、すねてる。

 くすくすくす。
 何かこいつのこういう所・・・おかしくて可愛いのよねぇ・・・・・。
 うん、今夜は気持ちよく眠れそう♪
「じゃ、おやすみ。ゼロス♪」

 ごそごそ。
「・・・・・・て何やってんのよ、あんたは」
 あたしの布団に潜り込んできたゼロスをジト目で見やる。
「リナさんとご一緒に寝ようかな・・・と」
 にこにこにこ。
 
 ドガッ!!!!!
 蹴り落としてやる。
「い、痛いじゃないですかぁぁぁっっ!!!!」
「あんたが変なことしようとするからでしょうっ!!!」
「リナさんと一緒に寝ようとしただけじゃないですかっ!!!」
「それが変なことなのよっ!!」
「変なことじゃありませんよっ!!恋人と一緒に寝るのの何が変なんですかっ!!」
「だ、誰が恋人よっ!!!」
 ここが宿だということも忘れてあたしとゼロスは叫び続ける。
「だってリナさん、僕のこと好きだって言ってくれたじゃありませんかっ!!」
「う゛・・・・・」
 そう言えば、勢いに流されてそんなことを言っちゃった気が・・・・。
「好きな者同士のことを恋人だって人間の間では言うんじゃないですか?」
「・・・・・・・・・」
 いや、まぁ・・・・・・・・・言う、かもね。
「それとも、僕のことを好きだというのは・・・・嘘だったんですかっ!?」
「嘘じゃないわよっ!!あたしはちゃんと・・・・・っっ」
 はうぅぅぅっっ。
 く、口が滑っちゃったぁぁぁっっ!!!
「リナさん♪大好きですよっ♪」
 ゼロスが上機嫌で迫ってくる。
「リ~ナさんっ?」
 くぅぅぅぅっっっ。
 何か悔しいわっっ!!
「・・・・・・・好きよっ!!悪いっ!!」
「いいえっ、ぜんぜん悪くありませんよ♪」
 真っ赤になったあたしの顔を両手ではさみゼロスが口づける。
「リナさん、好きです・・・・・愛してます」
「ん・・・・・・・」
「愛してます・・・・・」
 何度も繰り返し触れるようなキス。
「・・・・・・ゼロス」
「リナさん・・・・僕と結婚して下さい・・・・・」
 あたしがゼロスのキスにうっとりと酩酊したころに耳元で囁く。
 ぞくり、と背中があわ立つ。

 
青く美しい禁断の花。
あたしはその毒に侵された。
 


「・・・・・本当に・・・・・・あたしと・・・・・・結婚したい・・・・?」
「はい。貴女以外の誰でもなく、リナさんただ一人と」
 ゼロスの瞳が真剣な色をのせて真っ直ぐにあたしを見つめてくる。

 ああ・・・・・・・・もう逃げられない。
 

 禁断の恋。
 それでも捕まってしまったから。
 あなたという・・・・ゼロスという・・・・存在に。

「いいよ。ゼロスと・・・・結婚する」
「リナさんっ!!」
 深い・・・口づけ・・・・・・・・・・・・。
 あたしの意識はゼロスに向かう。
 ただ、ゼロスにだけ・・・・・・・・・・。


「浮気したら、神滅斬だからね」
「しませんよ、僕にとってリナさんがただ一人の愛する人ですから。あなた以外は目に映りません」
 リナの髪を一房すくい、恭しく口づける。
「呼んだら、すぐ来ないと許さないんだから」
「はい。ずっとリナさんの傍にいます。もう獣王さまにはお暇をいただきましたから」
「・・・・・・・・それで最近ずっと傍にいたのね」
「無給休暇だそうです」
「・・・・それってクビって言わない・・・・・・・・?」
「・・・・・・可能性は限りなく高いですね・・・・・」


「文無しなのね・・・・・・・・ゼロス」
「・・・・・・・・しくしくしく」
 あたしを抱きしめて涙を流す。
 かなり本気の涙ね、これは。


「結婚式は先になりそうね。それまではお預けよ♪」
 何をかは言わずもがな、である。
「リナさぁぁぁんっっっ!!!」
 

 まだまだゼロスとリナが一緒になる日は遠い(笑)。