「・・・リナ」
見知らぬ男の声で呼ばれた、愛しい人の名前。
それは・・・・・とてつもない不快感を僕に与えた。
「リナ、・・・・どうしてここに・・・・」
そう言いながら彼女に歩み寄ってくる。
「リナさん・・・・」
彼女に向かって伸ばされて僕の手が空をきった。
「ガ、ウ、リ、ィ?」
確かめるように男の名を紡ぐ彼女の髪に男の手が触れ、なでた。
「大きく、いや・・・綺麗になったな、リナ」
・・・・触れるな・・・・・・
「どうしてこんな所にいるんだ?」
男の質問には答えず、彼女は男にしがみついた。
「ガウリィっ、ガウリィッ!!」
「お、おいおい・・・・」
男はそんな彼女に驚きながらも抱きあげてぽんぽんと頭を軽くたたく。
・・・・・触れるな・・・彼女に・・・・
「リナがここに居る、てことは・・・・リナ、お前は運命の相手に会ったてことか?」
男の太陽のような顔がわずかに翳る。
「・・・・運命?・・・・・知らない」
だが、リナさんはあっさりと首を振る。
リナさん・・・・・ッ!
彼女の言葉は僕の胸を切り裂くに十分な凶器だった。
「でも、リナ。お前の後ろで何だか俺のことを恐い目で睨んでる奴がいるぞ?」
「ん?・・・・あ、ゼロス」
そこでようやく僕のことを思い出したのか、リナさんが明るく手を振る。
「リナさん・・・」
「ゼロス、ていうのかぁ、俺はガウリィ。よろしくな」
誰がよろしく出来るものかという眼差しで睨み返してやった。
いい加減、彼女をおろせばいいのに・・・・。
だが、彼女はご機嫌で彼の腕の中にいる。
「あなた、いったいどなたなんです?どうしてリナさんのことをご存知なんですか?」
「ああ、そっか。言ってなかったけ?」
・・・・・どうやらこの男はどこかぬけているらしい。
「俺は・・・」
「ガウリィ・・・どうしてあたしのこと置いていっちゃったの?」
彼の言葉を遮るように彼女が言った。
「置いて・・・いく?」
「あたし、あんなところに居たく無かったのに」
彼女の深紅の瞳から一滴の雫が落ちた。
「リナさんっ!ええとガウリィさんと仰いましたね、彼女を放して下さい!!」
こんな悲しい表情をさせる男に一時たりとも彼女を預けておきたくなかった。
「リナ・・・・・ごめんな」
彼女を地におろす。
「・・・謝って欲しいんじゃないっ!!あたしは理由を聞いてるのっ!!」
リナさんは小さい手で必死に男の服の裾を掴み、見上げる。
「リナ、お前は俺が育てた最高のプランツだ・・・・・手放すことが惜しまれるほど、な」
「っだったら・・・!」
「だが、リナがプランツである限り・・・お前にはふさわしい、運命の相手に巡り会わなければならない。そして、幸せに。それが・・・作り、育てた・・・・俺のたった一つの願いなんだよ」
「運命、運命・・・・そんなことどうでもいいっ!!あたしは、あたしが決めたことが運命なのっ!!誰かに決められるものじゃないっ!!」
「リナ・・・・」
「リナさん」
「・・・ゼロスっ!!」
今度こそ差し出された腕の中に彼女が飛び込んできた。
「あたしね・・・あたし・・・捨てられたと・・・思ったの・・・・っ」
首にしがみついて、泣き叫ぶ。
「出来が悪くて・・・側に置くことも出来ないんだ・・・って・・・っ」
こんな美しくて、可愛らしい貴女が・・・出来が悪いわけないじゃありませんか。
貴女がこんな思いをその小さな体の中に抱えていたなんて・・・・・
まだまだ・・・僕は貴女のことを知らなかったのですね・・・・
「だから・・・・ゼロスも・・・いつかあたしのこと・・・置いていくのかと・・っ思っ・・・」
それ以上は言葉にならない。
「リナさん・・・・僕が貴女を置いていくわけないじゃありませんか。貴女のことを・・・
一目で恋に落ちるほど愛しているんですから」
「本当に?」
「はい。僕はリナさんには決して嘘をつきません」
「・・・・うん」
「だから・・・リナさんも僕を置いてどこかに行かないで下さいね」
先ほどのように・・・・・
「あたし、も?」
「はい、リナさんも、です」
「あたしがゼロスを置いていくわけがないでしょう。だってあたしはゼロスと一緒に居るからこそ、あたしなんだから」
リナが不思議そうに当然のようにそう言う。
「リナさんっ」
腕の中にいる彼女を抱きしめずにはいられなかった。
「ゼ、ゼロス?」
「リナさん・・・・愛しています」
「うん、あたしもゼロス、大好きだよ」
2人には周りが見えなかった。
そして・・・ガウリィが消えていたことも気づかなかった。