プランツドール 〔嵐 編〕 1


チチチ・・・チチチ・・・・
 
 鳥の声に目覚めれば、まず視界に入ってきたのは艶やかな栗色・・・。
 それはゼロスの隣で眠る・・・プランツドール、リナの髪・・・・。
 栗色の髪は白皙の顔をふちどり、少女の美しさをより一層際立たせている。
 だが、瞼の閉じられたその顔は、まだあどけなく、少女の幼さを感じさせた。
 「リナさん・・・」
 髪の毛を一房すくい、それに口づける。
 そこに少女が居ることを確かめるように・・・・・・。
 やっと出会えた、ただ一人のひと。
 闇の中を歩く自分にとってただ一つの光。
 彼女が居るというだけで自分はこれほどの幸福感を味わうことができる。
 「リナさん・・・」
 きっと貴女は僕にとってファム・ファタル(運命の女)なのでしょう・・・・。
 ゼロスはリナの唇にそっとふれるようにキスをするとゆっくりと立ち上がった。



 コトコト・・・・・・
 リナがやって来てからというものめっきりキッチンに立つことの多くなったゼロスは
 今朝もまもなく目覚めるだろうリナのためにプランツ用のミルクを温めていた。
 空は明るく、太陽の光がやさしく窓から差している。
 ふと・・・気配がした。

「ゼロスぅ・・・・」
 振り向くと目をこすりながら寝巻き姿のリナが立っていた。
「おはようございます、リナさん。もうすぐミルクが温まりますから着替えていらして下さい」
「うん、わかったぁ・・・」


 そして・・・・・ゼロスは現れたリナを見て驚いた。
「リ・・・リナさんっ?!そ、その格好は・・・・っ?!」
「ん?・・・・変?」
 変もなにも・・・・かなり高いお値段で購入したプランツのひらひらふわふわドレスの
 裾のあたりが思いっきり切断されていた。
「邪魔だったから切っちゃった、えへ」
 えへ・・・・てリナさん・・・・・・・・・
 ゼロスはこめかみのあたりをひくひくさせる。
 すらりとのびた綺麗な細い足が丸見えである。
「どうしたの?早くミルクちょーだい♪」
「・・・・・・・・・・はい、どうぞ」
 しばし呆然としていたゼロスだったがリナの言葉に我にかえる。
「リナさん・・・・お願いですからそういう格好は家の中だけでお願いしますね・・・・・」
「どうして~??これなら外でも動きやすいと思ったんだけど??」
 ・・・・・・そういう問題じゃないんです、リナさん・・・・・・・・
 ゼロスの悲しみも何のそのリナは別のものに注意をむける。
「ねぇねぇ、ゼロス~~・・・それ、美味しそうね~~」
 リナがゼロスの食べているソーセージをねだるように見つめる。
「・・・ダメですよ」
「・・・・・ケチ~~~」
 そう、ゼロスはリナに一度知らずに人間の食べ物を食べさせてしまったことがある。
 もともと人間ではないプランツ・・・その後大変なことになったのだが・・・・・。
 困ったことにリナはどうやら人間の食べ物がお気に召してしまったようなのだ。
「ケチって・・・・リナさんは人間の食べ物は食べられないでしょう?倒れてしまったのを忘れてしまったんですか?」
「忘れてないけど~~、だって美味しそうなんだものぉ。ちょっとくらいなら大丈夫だって。だから、ね、ねっ♪」
「とにかくダメですっ!」
 この点、どんなにリナにねだられてもゼロスは譲らない。
 二度とあんな思いをするのは嫌だった。
「いいも~んだっ!!」
 べ~と舌を出してすねてみせる。
 ・・・・・・・そんなことしても可愛いだけですよ、リナさん・・・・・
 心の内で呟くゼロス。
「・・・・・・・・・・・ところでゼロス、今日のお仕事は?」
「今日は・・・・・・」
 リナの顔が心なしか曇ったように思えた。
「お仕事は、ありません。お休みです」
「ホントっ!!」
 リナが満面の笑みを浮かべた。
「はい、ですから今日はリナさんの好きな所にどこでも連れて行ってさしあげますよ」
「う~~んと・・・・」
 リナはゼロスの言葉に小さな指を頬にあてて必死に考え出す。
「・・・・う~ん・・・・」
「ゆっくり考えてくださっていいんですよ」
 ゼロスはそんなリナの様子を優しく見つめる。
「う~ん・・・・・・・・・・ゼロスと一緒だったらどこでもいいっ!」
「・・・んぐっ・・・けほっけほっ」
 リナの言葉に食べていたものを気管につまらせてむせるゼロス。
「ゼ、ゼロスっ?!大丈夫??」
「・・・・リナさん・・・・・」
 ゼロスは向かいに座るリナの小さな身体をぎゅ~~と抱きしめる。
 ・・・・・・どうしてこう自分の嬉しい言葉ばかり言ってくれるのだろうか、リナさんは。
「僕もリナさんと一緒ならどこでもいいです♪・・・そうだ、最近新しく出来たという遊園地に行ってみましょうか?」
「うんっ!!」
 二人は揃って輝くような笑顔を浮かべる。
 だが・・・・・・・・・・・・・
 その言葉をゼロスが死ぬほど後悔することになろうとはこの時まだ誰も知らなかった。