烈 夏


ぽつん・・・ぽつん・・・
 流れ落ちる汗が岩盤に染み込んでいく・・・・・・・・。


「・・・・あ~づ~い~~」
 声がひび割れている。
 ふと横をみれば倒れ伏した・・・ガウリィ、アメリア、ゼルガディス・・・・・。
 日干しレンガ状態の三人。 
 ・・・・・水かけたら割れちゃうかも・・・・・・・・・
「ふ、ふふふふふ・・・・・・」
 不気味な笑い声が口から漏れる。
 冷気魔法など何の役にも立たないほどただただ・・・暑い。暑い。
 そりゃもう暑い。
 地面からは陽炎がたちのぼり・・・・天からは陽が燦々と照りそそぐ。
 風はなく、水もない。

「・・・・・いったい誰よ・・・・・我慢大会になんか出場しようなんて言ったのは・・・」
 そういったリナの声に普段の元気は欠片ほどもなかった。


 思い返せば数日前・・・・・。


「リナさんっ!リナさんっっ!!」
 買い物に出ていたアメリアが一枚のチラシを持って駆け込んできた。
「・・・どうしたのよ?」
「これを見てくださいっ!!」
 そう言ってアメリアはチラシのある部分を指差した。
「・・・・・『参加賞:もらって君も正義の一人!ぴかぴか正義バッチっ!!』・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なに、これ??」
「正義バッチ・・・・っ!!何て素晴らしいものでしょうっ!!!私たち仲良し正義の4人組っっ!!これは絶対に手に入れないといけませんっ!!!」
 だんっととても一国の姫とは思えない所業で片足をテーブルにのせて拳を握る。
「・・・・・・・あたしはいらない」
「そんなことを言わず、リナさんも参加しましょうっ!!ガウリィさんもゼルガディスさんもですよっ!!」
「おいおい・・・・」
「・・・・俺は嫌だぞ・・・・」
 傍観していたガウリィとゼルが参戦する。
「あたしはそんなもんには絶対に参加しないわよ」
「えぇ~~」
「アメリア一人で参加してきなさいよ」
「ダメですっ!!参加資格が4人一組なんですっ!!」
「あ、そう」
 あたしはあっさりとそう言ってやる。
「うえぇ~ん・・・リナさぁぁん・・・・」
 うるうる目であたしを見上げるアメリア。
「何と言っても嫌。あたしは参加しないっ!!」
 断固却下。
 ガウリィとゼルもほっと一息ついている。
 打ちひしがれるアメリアを横目にあたしは3時のおやつ・・・ふわふわつるん♪の
 プリンを口に運ぶ。
「おやおや・・・・でもリナさん。ちょっとここを見てください」
 あたしの隣で紅茶を飲んでいたゼロスが指差す。
 ・・・・・・この暑いなかよくそんなもの飲む気になるわね・・・・・
「なになに・・・・・『優勝者には豪華景品、前代未聞のお宝を贈呈!!』
・・・・ほほぅっ!!前代未聞のお宝・・・ねぇ・・・」
「なかなかいい品物なそうですよ?」
「・・・・・何であんたが知ってんのよ?」
「街の方の噂です」
 当てになんない・・・・・・・・・
「では、他の方の手に渡ってもよろしいんですか?『前代未聞』のお宝が」
・・・・・・・それはちょっと悔しいかも・・・・・・
「主催者はこの土地のロードだそうですから・・・・結構いい品なんじゃないでしょうか、リナさん?」
「・・・・え?ロードが主催者なの!?」
 それを先に言いなさいよっ!!
 ロードが主催者なら秘蔵品という可能性だってある。
 万が一くだんないもんだったとしてもそれをかたに脅して・・・・ふふふふ・・・・。
「ふふふふふっ!!よしっ!!その大会出るわよ、アメリアっ!!」
「はいっ!!リナさんっ!!」
「そして優勝するのよっ!!」
(お宝はあたしのものよっ!!)
「頑張りましょうっ!!」
(正義バッチ、正義バッチ♪)
 あたしとアメリアは天井を指差し、ガッツポーズをとる。

「・・・・・参加するのかぁ・・・?」
「・・・・・拒否させては・・・・・くれないんだろうな」
 当然よっ!ガウリィ、ゼルガディスっ!!



「はい、これが受け付け確認書だから無くさないようにな、お嬢ちゃん」
・・・・・・お、おぢょうちゃんん~~っ!?
 ぴきっ。
 あたしの目がひくひくする。
「しかし・・・大丈夫なのかい?女の子にはちょっときついよ?」
「・・・・・は?」
「この『暑さ我慢大会』を甘く見ちゃいけねぇ。何しろ毎年行方不明者続出ってんだからな!!」
 ・・・・おいおい゛。
 どうしてたかが我慢大会で行方不明者が出るのよ?
「何しろ朝の日の出の刻から隣の砂漠に入って夕日が落ちるまで居なくちゃならねぇんだからな!しかも水やなんかは持ち込み不可だぜ?」
 それ死ぬって。いや、マジで。
「・・・・あたし参加すんのやめようかなぁ・・・」
「おや、リナさん逃げるんですか?」
 うにゅっ!
「誰が逃げるのよっ!!」
 ゼロスをつかまえ首を締める。
「ぐぇっ・・・て・・・リナさん・・・・っぐる、じぃ・・ですっ」
「あたしは断固として参加するわよっ!!当然じゃないっ!!誰が逃げるもんですかっ!!可愛い可愛いお宝ちゃんがあたしを待ってるんだからねっ!!!」
 あたしの鬼気迫る表情に皆が後ずさる。
「おっちゃんっ!!ルールを説明してちょうだいっ!!」
「お・・・おうっ!ルールは今言ったように日の出の刻に砂漠に入り、日が沈むまで居ること・・・日が沈んで一番最初に出てきた奴が優勝だ」
「魔法は使っても構わないわけ?」
「ああ・・・物の持ち込みは不可だが、それ以外は構わない」
 ふふふふふふ・・・・・楽勝ねっ!!
「ガウリィっ、アメリアっ、ゼルっ!!絶対に優勝するわよっ!!!」
「はいっ、リナさんっ!!」
「ほへ~~~」
「・・・・・・・・はぁ・・・・」
 アメリア以外は今いち気合が入らないけどまぁいいでしょうっ!!
 人数そろえばこっちのものよっ!!
 


 そう・・・・・この時、あたしは優勝をすでに確信していた。
 このパーティでたかが砂漠の一つや二つ・・・・と思っていたのだ。
 それが・・・・・・。





「・・・・ふっ・・・・・」
 言い出したのはアメリア・・・・・・。
 でも何よりも燃えていたのはあたしだった・・・・・・・・・・・・思い出した。
「ガウリィ・・・ゼル・・・アメリア・・・・・」
 あたしの呼び声にも反応なし。
 ん~これは本気でマズイかもしんない・・・・。
 それにしても魔法を使える人間が3人もいて・・・・ちょっとおかしくない?
 何だか普段よりも魔法の効きが悪いみたいだし・・・(あの日じゃないわよっ!!)
 この砂漠・・・・・・何かいわくがあるのかも。
「フリーズ・ブリットっ!!」
 とりあえずそこらの岩を凍らせる。
 ・・・・だがやがてジュワワワ・・・と溶けてしまう。
 いくら何だってはやすぎである。
「やっぱり・・・おかしいわねぇ・・・・」
「お困りのようですね、リナさん♪」
 現れたのはご存知迷惑魔族のゼロス。
「・・・・そろそろ来るころだと思ってたわ!」
「え?そうなんですか」
 あたしのセリフに落胆した表情。
 いつもいつも驚かされてばかりいるリナちゃんじゃないのよっ!!
「だって、あんたいつも人が面倒なことになってるときばかり狙って現れるじゃない」
「そんなことありませよ~、僕はいつだってリナさんのお傍にいますからお困りの時はお助けしようと出てくるだけです♪」
「・・・・困ってるの見て楽しんでるくせに」
「う゛・・・・はっはっはっ・・・・」
 笑って誤魔化すなっての。
「・・・・で、この砂漠いったい何なわけ?」
「実はこの砂漠は滅びの砂漠のコピーなんです」
 ・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・なにぃぃぃぃっっっ!!!!!」
 あたしは驚いてゼロスに掴みかかる。
「どういうことよっ!!そんなこと全然聞いてないわよっ!!」
「いや、まぁ・・・一般には知られていないものですから・・・ちょっと不思議な砂漠だなぁ程度に思われてるんじゃないでしょうか」
「何でそんなもんのコピーなんか作ったわけっ!?」
「冥王さまがご存命のころ・・・・・・・・暇にまかせてお作りになったと・・・・」
「んなもの暇にまかせて作るなぁぁぁっっ!!!!」
 まったく暇な魔族ほど性質の悪いものはない!!
「でも冥王さまがお亡くなりになって多少は魔法が使えるようになったようですから良かったですね」
「・・・ということはこれまでは全然使えなかったわけ?」
「はい」
 ・・・・・あのオヤジ。シメちゃる!!!
「日没まではあと3時間ほどですけど・・・・どうします?」
「こうなったら意地でも我慢してやるわっ!!それでお宝上乗せよっ!!!
 ・・・・ということで涼しくしてちょうだい、ゼロス」
 こけけっっ。
「ど、どうしたら・・・・そういうわけになるんですか・・・・・」
「だって直射日光は肌に悪いし・・・暑いと汗かいて気持ち悪いし・・・どうせあんた
 暇なんだろうし・・・・」
「・・・・・・・・・リナさんじゃなければ思わず滅ぼしちゃいますよ、そのセリフ・・・・」
 しくしくと泣きまねをする暇人魔族。
 そんなあいつをあたしは手招きする。
「・・・??」
 そして、抱きついた。
「・・・・リリリリ・・・リナさんっっ!?」
 おお、慌ててる慌ててる・・・(にやり)
 あ・・・・・やっぱ冷たくて気持ちいいぃ~~♪
 魔族って体温ないから使えるかなぁと思ったんだけど狙いは当たったわね♪
「ふふっ、魔族も役に立つことあるのね~~♪」
 すりすり。
 ああ~~冷たいってし・あ・わ・せv
「あぁぁっリナさんが僕に自分から・・・・・っ感動ですぅぅぅっっ」
 ふっふっふっ・・・・かかったわね、ゼロス!!
「みんなっ!!」

「「「お~う」」」

 びとびとびと!!!!
「ななななな、何なんですかぁぁぁ!!!」
 ゼロスがアメリア、ゼル、ガウリィにまで抱きつかれて叫び声をあげる。
「ああ~冷たいですぅぅぅ」
「生き返る~~」
「・・・・・・・・・・・」

「うわぁぁ、リナさん以外に抱き疲れても嬉しくないですぅぅぅっっっ!!!」
 諦めなさい、ゼロス。
 ここに現れた自分を恨むのね♪



 そして、あたしたちは日没までの3時間を耐え抜き、優勝を手にしたのだった。


 ついでに、その日、当地のロードの城が原因不明の爆発により倒壊したそうだ。
 ・・・・・・・・・・・前代未聞のお宝が『歌って楽しいおしゃべりチューリップの栽培法』
 だったあたしがキレたためというのは秘密である。
 それに・・・・あたしだけのせいじゃないし・・ゼロスも参加してたし・・・
 余程、皆に抱きつかれたのが嫌だったらしい。

 結局喜んだのは正義バッチを手にしたアメリア一人だった。